国内外の企業を相手にしたトレード事業・事業投資を中心に、多面的な事業を手掛けている総合商社。

時代の流れに沿ってビジネスモデルや注力する事業を柔軟に変化させており、数ある業界のなかでも高い平均年収を誇っている。本記事では、総合商社の平均年収が高い背景について迫っていきたい。

総合商社の平均年収は日本の平均年収の約3倍

東洋経済新聞社が発刊する「会社四季報 業界地図 2022年度版」によると、総合商社の平均年収は「1,257万円」とされている。

転職サイトdodaが発表した日本の平均年収「403万円(2020年9月~2021年8月調査)」と比較すると、総合商社は日本の平均年収の約3倍にも及ぶ。

続いて、日本の7大商社と呼ばれる7社の平均年収を見ていきたい(以下、会社四季報 業界地図 2022年度版より引用)。

7大商社の平均年収

  • 三菱商事  1,678万円
  • 伊藤忠商事 1,627万円
  • 三井物産  1,438万円
  • 住友商事  1,356万円
  • 丸紅    1,192万円
  • 豊田通商  1,100万円
  • 双日    1,095万円

上記のように、7社全てで平均年収が1,000万円を超えるという結果となり、高い水準を誇る。現代ではいくら働いても給料が上がらないとされる業種・職種もある一方で、総合商社は高収入を目指す人々からの人気の的であることは間違いない。

事業投資中心のビジネススタイルで利益を生み出す

総合商社のビジネススタイルは、事業に人材・物・資金・ビジネスノウハウを投資して、その会社から配当金や売却益を得るという「事業投資」が中心である。

事業投資は日々のランニングコストがかからない・あるいは少ないため、発生した利益を人件費や給料・ボーナスに回しやすいのが特徴であり、これが商社の平均年収が高い要因の1つだと言える。

例えば店舗型ビジネスの場合、店舗や事務所を借りる費用をはじめ、内装にかかる費用、設備費、広告費などが必要になる。また、事業を行うにあたって製品・材料などの在庫を抱えている場合には、在庫の品質を保つための費用も発生する。

無店舗型ビジネスの場合であっても、扱う商品・サービスを人々に認知させるには広告を掲載する必要があり、膨大な広告費が発生する。

こういった要点からも、商社のビジネスモデルは事業のためにお金を内部留保として残しておく必要がないため、利益を従業員の給料へ還元しやすいことがわかるだろう。

ただし、事業利益の見込める国内外の企業に対して出資を行い、配当金等で利益を生み出すという総合商社のビジネスの在り方は、決して簡単にできることではない。出資する業界・企業の開拓や見極めは高度なスキルを要し、さらには多大な額のお金を動かすという大きな責任も伴う。

このように、一般的な仕事よりも重大な責任が問われ、ビジネスとしてのレベルが高いという観点も商社マンの平均年収が高い背景にあるだろう。

出資だけでない、経営戦略にまで踏み込む

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や新型コロナウイルス感染症による経済活動停滞の影響によって、商社業界を取り巻く環境や顧客ニーズが変化している。

また、急速なインターネット普及により生産者と消費者が直接つながったことで「商社不要論」が唱えられたこともあった。

しかし、時代の流れを確実に掴んで事業の在り方を変化させているのが総合商社であり、これこそが売上を維持・向上させている背景だと言えるだろう。

近年の総合商社は、事業へ出資をして配当収入を得るだけでなく、投資先の事業経営にまで大きく関与して利益を上げるよう変革してきた。

例えば三菱商事では、原料炭や天然ガスへの権益投資が主な収益源だったが、新型コロナウイルス感染症による経済活動の停滞によって市況が悪化。

こういったなかで注力した事業の1つが、コンビニ事業である。全国に約15,000店を展開するコンビニ・ローソンの投資先企業に経営者としての人材を投資。

商品の仕入れや加盟店の消耗品の調達などあらゆる流通経路に入り込み、収益を上げることに成功した。

また伊藤忠商事では、再生可能エネルギーの需要が世界的に高まるなかで、低炭素社会・循環型社会に向けてのエネルギー事業に力を入れている。

特に地熱や風力、太陽光などのエネルギーを活用した発電事業を積極的に推進しており、国内外の発電所の設立・運営、出資や資産管理などを手がけている。

このような事業展開からも、総合商社は社会や消費者によるニーズの変化を明確に読み取りつつ、柔軟に事業を展開していることがわかるだろう。

総合商社は、今の時代に沿った形でビジネスに付加価値をつけ、売上の向上、そして従業員の給料・ボーナスへと還元している。

IoTやAI技術の急速な発展・普及やビックデータの活用などが唱えられるなかで、商社ではさらにビジネスモデルを変革していくことが予測される。本コラムが総合商社のビジネスの仕組みや売上向上の背景に対する興味・関心のきっかけになれば幸いである。