左:株式会社ABEJA 執行役員 左近 進 様
右:株式会社アサイン 取締役 奥井 亮
挑戦を重ねたキャリアの選択
━━ 左近様は、電通グループ、グリー、そしてアクセンチュアを経て、デジタルマーケティング会社であるSpeee、そして、現在はABEJAにいらっしゃいます。はじめの大きなキャリアチェンジは事業会社からコンサルティングファームへ移られたタイミングだと思いますが、そのあたりの経緯を伺えますか。
電通グループやグリーでのキャリアでは、ずっとマーケティングを担当していましたがマーケティングと言っても、広告やプロモーションなどの限られた領域に過ぎず、危機感を抱いたのがきっかけです。
当時私は30歳を過ぎており、コンサルとしての経験もなかったため、コンサル業界は全く選択肢に入っていませんでしたが、当時のエージェントの方から「未経験でも可能性はある」と勧められ、また、複数回の面接を通してお話しさせていただいた社員の方たちと思考が似ていると感じたため、コンサル業界に挑戦したという経緯です。
入社後はアクセンチュアの新規アカウントを担当するチームに参画しました。小さなチームだったので、マネージングディレクター(MD)から直接フィードバックをいただいたり商談に同席したりする機会も多く、成長するにはとても恵まれた環境でした。その中で、顧客、特にCsuiteの方とのリレーション作りやそのリレーションをきっかけにして売上を作るという経験を積むことができました。
━━ 参画から1年ほどでマネージャーにプロモーションされ、3年くらいでSpeeeへと移られたわけですよね。
はい、入社して1年ほどでマネージャーにプロモーションし、3年もコンサルティングワークを続けると、良くも悪くも慣れを感じていたので、次のステップを考え始めていました。
コンサルティングワーク自体は自分の性格にも合っていたので、このままコンサルティングファームでさらなるプロモーションを目指すという選択肢もあったのですが、コンサルティングファームの事業モデルでは、どうしても一人一人の事業インパクトは小さくなってしまうので、よりレバレッジのきく人材になりたいと思うようになっていました。
そのタイミングで、Speeeからマーケティング領域でのテクノロジーを活用した新規事業の立ち上げの話があり、将来的には事業責任者としての役割も任せたいとお声がけいただきました。マネジメントをする上でも、事業を現場の視点から理解し、他のメンバーとのコミュニケーションも大切にしたかったですし、何より事業をグロースする経験が私にはなかったため、上場前のベンチャー企業にメンバーとして参画することに全く違和感はありませんでした。
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事業の本質に向き合う。新規事業で得た経営視点
━━ メンバーでの参画とはいえ、お会いした当初から事業責任者の目線を持っていらっしゃった印象があります。ただこれまで支援をさせていただいている中では、ご自身で起業するというよりは、事業の創出やグロースを担うような経営層、いわばプロ経営者のようなキャリアを目指されていると感じています。
そうですね。当時から、40代までは当時の延長線で企業のニーズがあったとしても、50代になった時に企業から求められる存在であるためにはどのようになっていれば良いかというのは常に頭にありました。メンターでお世話になっていた方からも、経営人材になるか、リレーションのある顧客から大きな売上を作れるのかの2つだ、とアドバイスをもらい、後者についてはコンサル時代にある程度経験済みだったので、前者の経営についてのスキルを身につけることに重点を置くことにしました。
経営といっても、私自身は奥井さんのような強いパッションやアスピレーションを持つタイプではないと自覚しています。ですので、私もパッションを持った人のビジョンを中核として実現するような、プロフェッショナルな人材としての道が向いていると自分でも思っています。
━━ コンサルから事業側へ移って様々なギャップがあったと思いますが、どんなことが印象的でしたか。
一番は言い訳ができない、というところです。例えば、コンサルティングファームにいたときは「リソースが足りない」という言い訳であってもハイヤーマネージャーの方から一定理解していただけたのですが、事業では、どんな状況であれ成果を出さなければなりません。事業課題はいくらやっても尽きることはないので、「何をやるか」より「何をやらないか」、つまり事業インパクトにつながる優先度を判断することがとても難しかったと記憶しています。
また、ウィークリーで管掌役員に事業状況をレポートしていましたが、その場でのコミュニケーションも、自身の目線の低さゆえに初めは苦労しました。例えば、「結局、何のビジネスなの?」「競合他社はどこで優位性はどこにあるの?」など、今振り返れば事業の本質的な問いでしたが、当時は何を言っているかは分かるものの、どういう回答を求めているかを気にするあまり本質的な回答ができずに悩んでいた記憶があります。
ただ、回数を重ねるうちに、経営の視点や考え方が少しずつ理解できるようになり、なぜその質問をされているのか、背景にある意図を想像しながら対応できるようになりました。
新規事業では「この事業は何なのか」というような根本的な事柄も明確に定義できない場合が多いことは仕方がないと割り切りつつも、それでも常に事業の本質を考え続けることの重要性を学ぶこともできました。
━━ その一方で、コンサルの経験が活きる場面はありますか。
今でもコンサルの経験が活きていると一番感じるのは、専門でないテーマの課題に取り組むときの考え方やアプローチです。
事業ではやるべきことが全方位にあるので、自分が得意でなかったり、やったことがなかったりする分野に必ず直面します。そのような場面でも課題を構造化し、具体と抽象を行き来しながら課題解決のアプローチを考えるプロセスはコンサル時代の経験が非常に活きていると感じます。
例えば、私には純粋な「セールス職」だった経験がないのですが、営業部門の運営や育成について、専門家へのヒアリングやリサーチをし、それをベースに仮説思考で組み立て実行し、PDCAを回すことで実現することができています。
もう一つ成果を挙げられた要因として、奥井さんに私の右腕となるようなメンバーをアサインいただけたことも大きかったです。ちょうど立ち上げ期から拡大期に事業フェーズが移り、毎週のように新たな事業課題が発生していました。
そのタイミングで課題解決力に優れたファーム出身者を紹介いただけたことで、純粋に事業推進力が増しました。また、彼は「事業会社で必ず成功するんだ」というwillを強く持っていたので、ストレッチの効いた課題にも果敢に取り組んでくれました。それも、私との相性が良かった要因だったと思います。
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━━ Speeeでは1を10にする経験を積まれたと理解しています。ABEJAには何を期待して参画されましたか。
Speeeでは小規模であっても、とにかく事業の責任者として実績を作ることを目指していました。一定の成果を得られたので、次のステップとして50人から100人規模の、より大きな組織で事業をスケールさせる経験を得たいと考えました。そうなると、コンサルでは比較的小さなチーム、特定のメンバーとコミュニケーションが取れていれば日々の業務が滞ることはあまりないですが、事業会社ではそうはいきません。
その点、ABEJAでは入社前にCOOの小間や当時執行役員だった外木と複数回面談の場を持ち、事業の方向性からチーム組成までディスカッションを重ねる中で、このチームであれば、このメンバーと一緒なら入社後の早いタイミングで事業貢献ができるのではないかと自信を深めることができたことは、次のステップを考える上で大きな意志決定の要因になったと思います。
また、企業のAI活用などの支援をするという点ではコンサルティングファームでも同じようなプロジェクトを扱いますが、ABEJAは一緒に”ゆたかな世界を、実装する”という企業理念に代表されるように手触り感があるということも魅力的でした。コンサルティングファームでは、インダストリーカットでのベストプラクティスを参考にマイナスをゼロにするプロジェクトが多かったのですが、ABEJAは2年後や3年後の技術進化に対しての解像度が高く、その技術を活用すればこんな未来がある、という提案をします。未来のことなので、スライドをいくら書いてもその世界観が伝わらない。そんなときに、とにかく動くモノ、モックを作ってクライアントにもっていくと「それをやりたい」と言ってもらえることも多いです。毎月、毎週のように新しいテクノロジーが出てくるので難易度は高いですが、優秀なメンバーと一緒に未来を作っているという実感を持てることが、この業界、この会社の面白さだと思います。
事業グロースの先に。エグゼクティブへの挑戦
━━ ABEJAに期待していたことの1つとして、チームや組織をスケールさせる経験を得ることがありました。今まさにスケールさせている中で、チームや組織に対する考え方の変化はありましたか。
前職では0からのスタートに近く、ある程度新たに入社いただく方のスキルに合わせてポジションを作っていくことが多かった一方、ABEJAは私が入ったタイミングで既に一定の組織規模でしたので、ある程度決まった枠組みの中で人材をどう活かすかを考える必要がありました。これが最初に感じた大きな違いです。
現在はおよそ40〜50名のチームをマネジメントしていますが、近い将来には数百名単位をマネジメントしていきたいと思っています。その規模の組織をマネジメントし、常に周囲から期待される事業成果を残すには経験不足であることを自覚していますし、今後はより私の発言や行動が組織全体に与える影響を意識して、様々な価値観を持つメンバーへの配慮することも必要です。
ついつい忘れがちですが、周囲からの指摘や助言を謙虚に受け入れるよう一層心がけています。
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━━ 直近では執行役員となられましたが、立場が上がっても変わらない謙虚な姿勢にいつも感心しています。今後も引き続き、左近様のキャリアに伴走させていただきたいと思っています。今後の展望についてお聞かせいただけますか?
あまり先のことは考えていませんが、折角旬な業界に身を置いているので、この業界の人が一度は目にするような実績、ニュースを一つでも二つでも作りたいと個人では考えています。
また、私が数百名規模の事業をマネジメントする頃には、ABEJA全体では恐らく300名~500名規模の企業になっているでしょうから、今からその規模の事業会社をイメージしながら必要な準備を進めていきたいです。
━━ 本日は貴重なお話をありがとうございました。左近さんのように、エグゼクティブとしての道を切り開き、成長されていく方のお話を伺うことで、大変刺激を受けました。
引き続き、左近さんやABEJAの皆さまはもちろんのこと、志あるエグゼクティブを目指される方のキャリア形成を全力でサポートしていきたいと思います。これからのご活躍を心より楽しみにしております。
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