あらゆる物件や土地を取り扱い、販売や賃貸、仲介、管理など行う不動産業界では、AI活用やDXに向けた取り組みがやや遅れていると言われている。本記事では、不動産業界が抱える課題に加え、AI活用事例や導入後の未来について迫っていきたい。
不動産業界の課題とAI活用の現状
不動産業界は「人材不足」という深刻な課題が改善できていないという現状がある。残業や長時間労働が常態化している会社も少なく、労働環境の悪さという長年抱える課題の解決が迫られている。
また不動産業界は、新型コロナウイルス感染症の流行による需要の急激な落ち込みも課題である。
社会問題となっている人口減少や未婚化も重なったことで、新築物件のニーズが減ったり、空き家が増えたりといった状況が進行するだろう。
こういった不動産業界の課題を解決する1つの手段として注目されているのが、AIの活用である。人間が担っていた業務の一部をAIに任せることで、労働環境の改善や業務の効率化へとつながることが期待されている。
さらには、AIの導入によってこれまでにない新たなサービスが生み出されるという期待もあるだろう。
しかしながら、不動産業界全体のAI活用をはじめとするDXへの取り組みは、ほかの業界に比べてなかなか進んでいない。
2020年時点で不動産業界全体のDX化進捗は約50%以下であり、アナログ方式の業務が根強く残っている。
とはいえ近年は、業務の自動化や効率化に力を入れる不動産企業が増加しており、AI活用の需要が高まっているのも事実である。これからは、進歩の著しい先端技術をいかに活用するかという観点こそ、今後のビジネスを大きく左右するだろう。
不動産業界におけるAI活用事例
次に、不動産業界における具体的なAI活用事例を見ていきたい。
不動産の価格査定
不動産業界で、AI活用が最も進んでいるのが不動産の価格査定である。これまでは、管理会社の担当者が長年の経験やあらゆる情報に基づき賃料査定を行い提案してきた。
ただ、膨大な物件データや過去の情報を考慮して査定を行うのは膨大な時間がかかり、効率が悪い。
しかしAIであれば、人間が扱うよりもはるかに大量の物件データや過去の取引履歴を扱うことができ、瞬時に分析および計算を実行できる。
人間によるヒューマンエラーが発生しがちな計算・分析業務でも、AIであれば信頼性の高い査定が実現するだろう。
また、あらゆる物件価格データを取り込んだAIが適正な金額を割り出すことで、物件オーナーに対してその賃料が適正であるという根拠を示せる点もメリットである。物件オーナーとの金額に関するトラブルが減り、賃料交渉における物件担当者の負担も軽減するだろう。
不動産・顧客管理
膨大な不動産や顧客の管理にもAIが活用されている。物件の購入を検討している顧客のデータとしては、希望する予算や地域、駅からの距離、物件の条件などさまざまな項目があり、全てを漏れなく管理するのは極めて難しい。
しかしAIを活用すれば、顧客データを適切に管理し、自動で更新することが可能にある。
また、変化の激しい不動産情報の管理も負担となっている会社も少なくない。不動産の管理という面でも、学習したAIが最新情報を入手しつつ反映してくれるので、管理上のミスを減らせるだろう。
自動追客
AIが顧客を追客するMA(マーケティングオートメーション)サービスも注目されている。
MAとは、不動産の購入検討者が不動産閲覧ページのうちどのページを見ていたか、どのような物件を探しているのかといった顧客データをAIが分析し、顧客に合ったメールや物件情報を送信するサービスである。
一人ひとりの顧客情報をAIが自動で分析するので、顧客に対して個別に、あるいは定期的に的確な物件を紹介できるようになる。
AI導入前は、担当者が1通ずつ顧客へ個別のメールを作成し送信していたため、膨大な時間がかかっていた。しかし自動追客を活用すれば、担当者1名あたり約600時間の時短が実現するとのデータも出ている。
このように、顧客向けのメールの作成や管理にAIを導入することで、作業を大幅に時短でき、効率のよい営業活動が実現するだろう。
AI導入後における不動産業界の世界
これまでの不動産業界の業務は、アナログかつ属人化している傾向にあった。しかしAIを導入することによって、業務が効率化され、人材不足解消・長時間労働の改善につながることが期待されている。
また、一部業務をAIに任せることで、空いた時間で営業活動の改善や細やかな顧客対応の見直しへ費やせるようになり、経営改善・売上向上へもつながるだろう。
ほかにも、顧客自身の不動産投資参入のハードルが下がったり、バーチャル内見などによる新規顧客の獲得機会を増やせたりと、DXによってさらに不動産業界の事業の在り方が変化すると予測される。
将来的に需要の下落が見込まれている不動産業界は、どのように解決していくかが問題である。また、労働環境の悪さという面もいち早く解決すべき問題だ。
こういった課題を踏まえて、うまくAIなどの最先端技術を活用しつつ、サービスの在り方を見直していくことが求められる。
不動産関係者の仕事の仕方や取引方法なども変わることが想定されるため、AIの発展や活用事例についても個人として着目しておくべきだろう。
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