MaaS(マース)という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。Mobility as a serviceの略だが、この概要を押さえられている人は意外と少ないように感じる。

今後さらに成長が予想されるMaaSについて、今回は基本的なところから理解を深めていきたい。

MaaSはフィンランドから始まったとされる

MaaSは言葉で定義をすると、ICT(情報通信技術)を活用して交通をクラウド化し、あらゆる全ての交通手段による移動を1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念、と言える。

デジタル化と密接に関係しており、身近なところではスマホのアプリ上で様々な交通手段の検索、予約、利用ができるような仕組み、とざっくりイメージしてもらえるとよいだろう。

MaaSという言葉の起源はフィンランドであり、フィンランドにあるMaaS Global社のサンポ・ヒータネンCEOが提唱し始めた。以降、モビリティの情報検索から予約や決済までできる「MaaS」のビジネスが生まれ、成長を続けている。

そんなMaaS先進国であるフィンランドでは、首都ヘルシンキにおいて世界初のMaaSプラットフォーム「Whim(ウィム)」というサービスを提供。

月額499ユーロのプラン「Whim Unlimited」を使えば、ヘルシンキ内の鉄道やバスといった公共交通機関が利用し放題で、さらにタクシーやレンタカー、シェアサイクルも基本無料となる。

アプリ上で交通手段を横断した経路検索ができるほか、予約も利用もアプリ一つで完結できるようなサービスだ。

フィンランドは国内に完成車メーカー企業がないため、国民が自動車を購入すると国外での消費となってしまう。そこで、MaaS事業を国がサポートしたことでMaaS先進国になった。

MaaSによって人の動きがシームレスになる

MaaSの成長が加速することでどのような社会が実現されるだろうか。いくつかのステップを追って説明したい。

MaaSの高度化は5段階で定義され、日本はまだ下から2つ目の段階にいると言われている。
・Level4・・・政策の統合(地域政策、官民連携)
・Level3・・・提供サービスの統合(パッケージ化、サブスク化)
・Level2・・・予約・支払いの統合(検索、予約、決済のシームレス化)
・Level1・・・情報の統合(マルチモード移動計画、運賃情報)
・Level0・・・統合なし(個々の移動ごとに個別対応)

MaaS先進国のフィンランドもまだLevel3の位置付けのため、各国各社まだまだこれから取り組みを続けていかなければならないフェーズにある。

段階的に高度化が進んでいくが、例えば、バラバラだった各社の運行データが集約され、人々の移動情報を高い精度で見える化できるようになる。

移動情報が見える化されることで、移動手段の供給が多すぎるエリアと不足しているエリアが明確になるため、不足しているエリアでの交通手段の拡充が進んでいく。

また、キャッシュレスの急速な普及に伴い、交通系ICカードはかなり広範囲で使用できるようになった。少し前では地域ごとに互換性がないなどの不便があったが、そのような非効率はかなり解消されている。

一方で、諸外国と比較して日本は若干遅れをとっている。ただ、完成車メーカーとしての日本のプレゼンスは非常に高く、技術力もまだまだ負けていない。

MaaSの中でもモビリティとしての自動車は根幹部分になるため、今後日本の完成車メーカーがMaaS領域で覇権を取れるのかは注目したい。

人々の移動を変革することで地方創生

MaaSと地方創生は密接にリンクしている。Level4のフェーズにも官民連携のキーワードが出ているが、地方自治体との連携はサービスの成長、社会課題の解決にとって非常に重要となる。

例えば、地方では、採算が取れない路線バスの運行が減少していたり、そもそもなくなってしまっていたりと、人々の移動手段に大きなダメージを与えている。

高齢者が多い地域では、移動難民や買い物難民が発生しているところもある。このような弱ってしまった地域の交通インフラを自動運転などの新しい技術を活用することで復活させる取り組みが増えている。

また、観光地でも移動手段と観光情報を一括で見れるようなサービスを展開することで人の流れを最適化し、パーソナライズされた移動ルートやおすすめ情報を提供することが実現され始めている。

このような新しい取り組みには、規制緩和などの官民連携が非常に重要であり、日本は諸外国と比較しても独自のルールが多く存在しているため、サービス統合が進みにくいという弱みがある。

しかし、統合されたシームレスなサービスで人々の利便性を向上させるには各主体が大きな目標に向かって一体となることが必要不可欠である。

今回はMaaSの基本的なところを説明した。成長を続けるMaaSだが、官民連携や新しい技術のビジネス導入などまだまだ課題は多い。

多くの社会課題を解決してくれる可能性を秘めたMaaSの今後に期待したい。