(左): デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 執行役員/パートナー 小野 隆様
(右):株式会社アサイン 取締役 奥井 亮
事業会社の人事から、コンサルタントに
――最初に、ご経歴を伺えますか。
元々は事業会社で人事をやっていました。デロイトに入ってからは21年になります。
前職では新卒・中途採用、給与計算から、人事制度の改定など人事・労務周りを幅広く担当していました。
デロイトに入ってからは基本的にHRの領域で、ヒューマンキャピタル領域を幅広く経験しておりますが、特に組織再編などのPJを経験しました。
途中2、3年ほどインダストリー側のコンサルタントをやっていた時期もありましたね。
――事業会社からどういった経緯でコンサル業界に入られたのでしょうか。
前職が薬品会社で元々MRをやってみたいと考えていましたが、なかなかキャリアチェンジが難しい環境でした。
新卒から一貫して人事をやる中で、人事コンサルの方と関わる機会があり自分もやってみたいなと感じたのが主なきっかけです。
コロナ禍によって起きた組織のあり方の変化とは
――コロナ禍によって、組織のあり方としてどのような変化が起きましたか。
2つあります。
1つは、DXやワークスタイル変革など、元々検討していたものの中々進まなかったところが加速していったこと。
2つ目は、個人の幸せやエンゲージメントが重要視されるようになったことです。
これまでは出社して1つのチームとして動いていた状態から、リモートで個人として動く機会が増え、組織との関係性やキャリアについて考える機会が増えたことが要因として考えられます。 特に2点目については、個々人の自立性や個人間の連携が求められており、各社の課題になってきていますね。
――1点目について、人々のテクノロジーに対する抵抗感が減ったと感じているのですがこちらはいかがでしょうか。
それは明らかに変わったと思います。
Webのミーティングやチャットの環境は進んでいますし、コロナ前に中々進まなかったリモートワーク化は急速に受け入れられました。
しかし、実際にDXを推し進めていく中で、自身のビジネスや業務を変えていくところに対して個人の意識が高くなってきたかというと、そこはまだまだ取り組み途上ではないかと感じています。
ベースは良くなってきているけれども、もう一段二段必要な印象です。
――そこはどうすればステップアップしていけると考えられていますか。
単純化するために三階層で分けて考えられればと思います。
まずは上位層、役員層のDXを進めていくんだというリード意識を高めていくことが重要で、ここについては進んできていると思います。
次に中間層。日々のビジネスや業務を推進していくなかでどうしても変えたくないという慣性が働きがちかと思います。
ここをいかに変えるかが肝で、まず中間層の中で熱量の高いところから変革を進めていけるかですね。
最後は全従業員層にいかにDXリテラシーを身に着けていただけるかだと思います。全体の底上げと中間層の変革とを同時並行でやっていけるかが重要ですね。
――中間層を説得する上でいかにユースケースを作っていけるかが重要だと思いますが、最初の一手としてどんなところがポイントになるのでしょうか。
いわゆるアジャイルやデザイン思考というところで、顧客は誰で、どんな提供価値を与えられるかというところをデジタルツールなどを使いながらトライアル&エラーをして変えていくところからスタートだと思います。
全社的に一気に突き進んでいくというものではなく、色々なところで局所的に起きたDXの取り組みをいかに繋げていけるかだと思います。
――2つ目の自立性というのは難しい問題だと思いますが、実際どんな打ち手を打っていくのでしょうか。
実際とても難しい問題ですが、いかにテクノロジーを使って可視化していくかがポイントになってくると考えています。
パフォーマンスの状況はもちろん、メンタルの状況なども可視化できたら良いですよね。
また、最近耳にする機会が増えた心理的安全性もいかに見える化していけるかは重要になってきます。
――テクノロジーの重要性が高まってきているということですね。そんな中でデロイトのHRTで求められる人材とはどんな方でしょうか。
HRTでは、テクノロジー領域の構想策定から、導入、運用保守といったところに加えて、HRストラテジーと呼ばれている人事の機能、組織、業務、人材の育成やそれをデジタル化していくこと、さらにデータ利活用をどうするかという案件まで幅広く手がけています。
コンサルのベーススキルが求められるのは当然ですが、ソフト面としてクライアントへ高い品質を出すという想いが必要ですね。
幅広く手掛けていく中で、個人一人ひとりで出せるパフォーマンスは限られていますが、各々が誠実性を持って高い品質を追及していくんだという姿勢を持てるかがとても重要です。
――テクノロジー人材に対して求めることはどういったことでしょうか。
昨今はWorkday HCM、SAP SuccessFactors、Oracle HCM、Service Now HRSDだけでなく多様なHRテクノロジーが存在しています。ソリューションの幅が広くなっていく中で、導入するだけでなく場合によっては自分たちで開発する必要があったり、AEB(※)と言われるアセットでビジネスをするなど変わってきました。
純粋にコンサルのスキルだけを求めすぎるよりも、エンジニアの知見を活かすなどテクノロジーの知見を求める機会が増えてきています。
インプリメントの案件ひとつとっても、他のシステムとの統合の際にテクノロジーの知見はマストになっています。
HRTのチームにおいては、テクノロジー出身でない人もいますが、テクノロジーの知見を身につけなければならないというのは皆、自覚していますね。
※AEB…Asset Enabled Business:従来コンサルタントが人手をかけて提供していた専門的サービスをアセット化し、アセットを使ってクライアントに関わる課題を速やかに分析して可視化するとともに、それに基づきコンサルタントが様々なアドバイザリーやサービスを提供すること
――デロイトのHCチームは他ファームとどういった違いがあるとお考えですか。
クライアントのコンサルに対する期待値が高まる中で、時には耳の痛いことを言うくらい単なる支援というより協業していくという姿勢を大切にしていることが1つあるかと思います。
また、グローバルの連携が強いことでしょうか。HRTではグローバルやアジアパシフィックのデロイトメンバーやアライアンス先との間で、サービス開発やナレッジに関する連携を常に行っているだけでなく、PJTベースあるいは出向での人材交流についても積極的に行っています。
クライアントの要望に応じて、各領域のプロフェッショナルがチームをまたいで縦横無尽に協力し、最高のアウトプットに向かっていけるのは大きいですね。
デロイトでは、従来から重視されてきたインダストリーとの連携がさらに大事にされてきていますし、案件の最初の段階からインダストリーメンバーとともにクライアントとディスカッションをさせていただく機会がほとんどです。
研修から評価まで一貫した育成にこだわる文化
――事業会社からコンサル業界への転職を考えられている方には、入った後に活躍できるか不安を覚えている方も多いですが、文化面や制度面でデロイトの特徴はありますか。
文化という観点でいえば、人を育てるという考えは強いと思います。
どちらかといえば人材輩出企業だと思っていますし、未経験の方がうちに入ってきて、もちろんステップアップした後に残る方もいますが、他ファームや事業会社に行くケースが一定ありますので。
マネジャー以上に限らず、メンバー層も含めて自分のプロジェクトに入ったメンバーだけではなく、人を育てていこうという気概がある人が多いですね。
制度面でいうと少なくとも月に1回の頻度でチェックインというチームで行う1on1ミーティングがあります。
デロイトUKで行われていたものを参考にしていて、基本的に1on1といえば上から下へ指導するイメージがありますが、チェックインは各メンバーが今週何をして、ネクストアクションどうしていこうと考えているかを話していって、それに対して上、横、斜め、下からコメントをもらうという形式です。
――面白いですね、タイトルでいうとシニアコンサル以下はできる等の制約はあるのでしょうか。
マネジャー以上のタイトルでもやりますね、コンサルタントがシニアマネジャーの持っている課題やネクストアクションを聞いたり、普段感じていることをフィードバックしたりできます。
――メンバーにとっても参考になりそうですね、将来の課題が先取りできるようなイメージが持てます。他にもコンサルタント向けに全社的に研修等もされていますよね。
中途入社も奇数月は3週間程度基礎トレーニングをします。
その後いきなりプロジェクトに入るケースもありますが、だいたいは会社が負担させて頂き、SuccessFactorsやWorkdayの資格取得に向けてのトレーニングを提供しています。
Workdayでは、2週間+1週間の集合研修(コロナ以降はWeb形式が主)にて基本的なスキルを身につけるとともに資格取得を行って頂きます。
他にはシャドーアサインといって、教育目的にてインターンとしてプロジェクトに入っていってもらう形を取ることがあります。クライアントワークした方が経験値としては圧倒的に伸びるので。
10年以上前ではありますが、以前は事業会社出身の方がミスマッチで辞めてしまったことがありまして、ソフトランディングしてほしいという想いから必ずコーチをつけますし、180日プログラムというものを行っています。
これは本人とコーチとユニット長の3人でだいたい1ヵ月に1度スキルアップのアドバイスや、知りたいこと学びたいことを聞いてその領域に詳しい人を紹介していくというものです。
――そういうサポートが制度としてあるのは強いですね。
あとはアサイメントですね、HRTでいうと毎週マネジャー以上でアサイメントについて検討しています。
コーチとしての役割を持ったマネジャーも参加しているので、「この人の成長課題からすると、こういったロールを担ってもらう方がよい」などの課題感をコーチからあげてもらって調整していくようにしています。
評価についても四半期に一回マネジャー以上で集まって全員分のパフォーマンスの状況を確認するというのをかなりの時間をかけてやっています。
これはみんなが育成に関心がないとできないことだと思っています。
変革期にあるHR。デロイトが目指す支援とは
――これまで組織のあり方の変化や、デロイトでの立ち上がりについてうかがいましたが、今後どういうテーマや課題感を扱うことが増えるとお考えでしょうか。
HRの存在そのものがオペレーションをやっているだけでは立ち行かなくなってきています。
HRは変革期にあると思っているので、そこでいかにサポートしていけるかが重要だと思っています。 これまでは人事制度や人事業務があってからのテクノロジーという順序でしたが、今はテクノロジーがあるのは前提でいかにチェンジマネジメントしていくかという話になってきていると感じます。
――HRが独立しているというよりは、全てに関わっているような印象は他の大きな企業をみていても感じますね。
HRの役割が変わってきたと思います。これまではオペレーションを確実にやることが期待されていましたが、「経営に資する人事」「従業員のためになる人事」などと言われる中で色々な会社が例えばCoE、HRBPなど機能を分化させてきました。
我々がこの次のステップとして目指しているのは、さらにHRの中がより組織的に動き、DXの推進や人的資本経営の推進といった全社的なチェンジを起こす主体者になることですね。
――今後の展望はいかがでしょうか。
お客様からはありがたいことに案件の引き合いを多く頂いており、より良い価値提供をするために採用を加速させていきたいと考えています。他社を追いかけるというよりは、アドバイザーからオペレートまでなど幅を広げていくことこそがデロイトの強みをより大きくすることに繋がると思います。
今世の中で何が求められているかを考え、まだ細かい粒度まで落ちていない段階からディスカッションして進めていきたいですね。
そのほかに外部とのアライアンスや社内のインダストリーなど連携しながらサービスを提供できる状況になっているのでそこは引き続き注力して取り組んでいきたいです。
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