世界的な物価高や国内の人材不足などを背景に、賃上げの気運が高まっている。

賃上げは初任給にも波及しており、国内のさまざまな企業が賃上げに踏み切るニュースが連日のように報道されている。

そのなかでも、ユニクロは初任給および既存社員への賃上げ実施を発表し、その上げ幅が大きいことで話題となった。

なぜ、ユニクロがここまでの賃上げを実施することになったのか。

本記事では、ユニクロの賃上げ理由や平均年収などを解説する。

ユニクロ初任給アップの実態

ユニクロが2023年3月に初任給ならびに既存社員への賃上げを実施したのは、いくつかの理由がある。

ここでは、その賃上げの実態について解説する。

新入社員の初任給を25万5,000円から30万円へ賃上げ

「ユニクロ」や「ジーユー」などを展開する株式会社 ファーストリテイリングは、初任給を25万5,000円から30万円に引き上げることを発表した。

年収ベースで換算すると約18%の賃上げである。

国内において、初任給で30万円支給する企業は極めて少ない。

それを示すデータが、厚生労働省が発表している「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況(新規学卒者)」だ。

この調査によれば、平均初任給が高専・短大卒で「21.6万円」、大学卒で「22.8万円」、大学院卒で「26.7万円」であった。

大学院卒であっても初任給は平均20万円後半であり、ユニクロの初任給30万円は非常に高い数値であることがわかる。

ファーストリテイリングの広報担当者によれば、平均よりも高い初任給を設定したことには以下のような理由がある。

  • グローバル企業として持続的な成長を続けていける基盤を整えたい
  • 海外と比較すると日本の給与水準が低いため、優秀な人材確保のためには思い切った改定が急務であった

人材難に悩む企業が増加するなかで、企業はさまざまな施策を実行し、優秀な人材の確保・維持に努める必要がある。

初任給の賃上げは、若い人材を囲い込む施策として有効だ。

ユニクロはグローバル市場を見据えた今後の事業展開を念頭に置き、大幅な初任給の賃上げに踏み切ったといえる。

現正社員の報酬も約4割賃上げする

ユニクロは、既存社員8,400人に対しても報酬を数%から最大40%アップすることを発表した。

世界各国で報酬改定を推進するなかで、日本が諸外国と比較すると低い水準にとどまっていることから、この改善策として実施されることになった。

ユニクロにとって、日本の報酬を国際水準にできる限り近づけることで、日本から海外、海外から日本に人材異動が行いやすくなるという利点がある。

国内のみならず、世界中から優秀な人材を確保しやすくなるのだ。

初任給の賃上げと同様に既存社員の賃上げも、今後の事業展開や人材難を見据えた施策の一つだ。

ユニクロ正社員の平均年収

OpenWork」によると、ユニクロ正社員の全体平均年収は「505万円」である。

ただ、職種や年齢で平均年収は上下している。

ここでは、ユニクロ正社員の職種別・年齢別の平均年収を紹介する。

職種別の平均年収

ユニクロ正社員の職種別平均年収は、以下の通りだ。

職種年収(年収の幅)
販売366万円 (190万〜1,020万円)
店長616万円 (490万〜900万円)
営業523万円 (300万〜900万円)
マーケティング882万円 (600万〜1,500万円)

※非正規雇用の年収を含みます。
参考:ユニクロの「年収・給与制度」 OpenWork

上記のデータからわかる通り、販売や店長などのいわゆる現業職よりも、営業やマーケティングなどの本社もしくは支社勤務の正社員のほうが平均年収は高めである。

ただ、現業職でも店長まで昇進すれば、最大で年収900万円まで増加する。

個人の努力次第では、現業職でも高い年収を獲得できるだろう。

年齢別の平均年収

ユニクロ正社員の年齢別平均年収は以下の通りだ。

年齢年収(年収の幅)
25歳378万円 (227万〜630万円)
30歳472万円 (283万〜787万円)
35歳523万円 (314万〜872万円)
40歳523万円 (314万〜872万円)
45歳528万円 (317万〜880万円)

参考:ユニクロの「年収・給与制度」 OpenWork

一般的な企業と同様、ユニクロでも年齢が上がるにつれて平均年収が上がっていく傾向だ。

ただ、35~45歳になると年齢による年収の差はほとんど見られなくなる。

単に、年齢が上がれば自動的に年収が上がる給与体系にはなっていないことが読み取れるだろう。

ユニクロでは、年齢よりも成果や実績のほうが年収アップに必要な条件だと考えられる。

ユニクロの年収に関する口コミ

ユニクロの年収や報酬に関するコメントを紹介する。

  • 階級別に基本給が決まっており、昇格試験に合格すれば基本給は上がる
  • ボーナス支給のタイミングは4月の半期賞与と10月の半期賞与+決算賞与であり、本社勤務の社員はボーナスがストックオプションとなる
  • 社員から店舗責任者になると給料が一気に上がり、業界と年齢のわりには高い給料が望める環境である
  • 直属の上司であるスーパーバイザーとの相性も肝要で、フィットすれば評価されて給料も賞与も上がっていく

参考:OpenWork

ユニクロで昇給する・あるいは高いボーナスを得るためには、昇格試験に挑戦し、上長からよい評価を得られるように成果を出す必要がある。

ボーナス支給の回数も多く、昇給・昇格のチャンスも得られやすいことから、日々の努力が年収に反映されやすい職場といえる。

ユニクロのビジネスモデルの強み

アパレル業界では、例えば物流は外部に委託したり、販売は商社や代理店などに一任したりするなどの動きは珍しくない。

しかし、ユニクロは服飾に関係する企画・計画・生産・物流・販売までのプロセスを一気通貫で行う「SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)戦略」を採用している。

SPA戦略を採用することで、他社の追随を許さない独自製品の企画・販売が可能なのだ。

ユニクロがSPA戦略を継続していくためには、各部署のパフォーマンスが欠かせない。

ユニクロの部署の代表例は、以下の通りだ。

部署名概要
R&D(デザイナー/パタンナー)・顧客や世界のトレンドを拾い、新製品のコンセプト決定、サンプル作成をする部署

・何度もサンプルを作成し、最終的に製品となるデザインを決定する
マーチャンダイジング(商品企画)・各部署と密接にコミュニケーションを取りながら、シーズン商品のデザインや素材を決定する部署

・各シーズンの商品構成や生産数量を決定し、生産工場に指示を出す
素材開発・調達・機能性や着心地、風合いなどを徹底的に検討し、改良を重ねていく部署

・世界中の素材メーカーと直接交渉することで、高品質な素材をローコストで大量に安定調達する
生産工場・労働環境や管理体制などをモニタリングし、適切な生産が行われているか管理する部署

・工場とのWin-Win の関係を継続することで、高品質な商品を生産し続ける

参考:ユニクロのビジネスモデル | FAST RETAILING CO., LTD.

上記のほかにも、「匠チーム」や「店舗」などのさまざまな部署があり、全ての部署が協力しながら事業展開を行っている。

分業された各部署が機能しながら協力していく土壌があるからこそ、今も成長を続ける大手企業になったことがわかる。