この記事では、総合商社業界について語るとともに、主要なプレイヤー、業務内容、適性、そしてキャリアパスについて解説します。

【業界トレンド】

昨今の総合商社業界では、資源価格の影響を受けることなく、安定した経営基盤を確保すため「非資源分野」への投資拡大が進んでいます。

トレンドの契機として、2016年の資源エネルギー市況の低迷が関係しています。当時、収益における資源分野の割合が高い三井物産と三井商事が創業以来の赤字を出したことで業界に衝撃が走りました。一方、繊維や食品、機械など非資源分野に強い伊藤忠商事が、初の業界首位に立ち、総合商社業界のパワーバランスを大きく塗り替えました。2016年の5大商社ランキングが大きく変わったことで、市況に左右されない非制限分野の強化を目指すトレンドが一気に急拡大しました。

近年では、より激しい市況の変化に対応すべく業界全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。膨大なビッグデータを活かし、消費者の動向から需要を予測することで、無駄な発注や在庫切れを削減が可能となりました。

例えば、三菱商事では産業全体の変革を推進する「産業DXプラットフォーム」の構築を目指しています。需要予測や物流の改善によって食品ロスやCO2排出量を削減して脱炭素化を推進するなど、デジタル化と環境に配慮した社会を両立させる仕組みづくりに取り組んでいます。

【主要プレイヤーと特徴】

【主な職種の業務内容】

総合商社は事業領域が多岐に渡る上、手がけるバリューチェーンの広さも随一です。そのため、一つひとつの職務内容の詳細を理解することは大変困難です。今回は大きなカテゴリーとして事業投資、トレーディング、コーポレート部門それぞれに分けてご説明します。

事業投資、経営

今や総合商社の根幹をなす事業投資。営業部が関係を構築した出資先の候補について投資部門が評価、交渉を行い事業投資を行っていきます。既存事業はもちろん新規事業、時にはジョイントベンチャーの設立にも携わるなどダイナミックさが魅力です。また、投資して終わりでなく経営まで踏み込んでいくのが総合商社の醍醐味です。投資先の業績管理、事業経営を行うチャンスもあります。しかし、投資業務や経営を前線で行うのは10数年の経験を積んでからである点は理解しておきましょう。

トレーディング

サプライチェーンを俯瞰して需給の調整などの物流オペレーションを行います。サプライヤーから仕入れ、顧客に売るという昔ながらの商社のビジネスモデルです。どこへ対して売るべきか?をサポートするマーケティング機能、最適な物流手段の提供(物流価値)、豊富な資金を基にした金融機能によって企業をサポートしていきます。また、実際にトレーダーとしてデリバティブ取引を行い、収益の最大化を図るポジションもあります。

コーポレート

人事や経理、財務、法務に加え、DXの波が激しい昨今ではDXに関しての専門性を持ち、各事業のデジタル事業企画や、プラットフォームの開発を行うDX部門を構えている商社が多いです。デジタル活用による物流最適化や社内のIT・デジタル活用戦略の立案や推進など商社という大きな組織が変革する中核を担うことができます。

【職種別適性】

事業投資、経営

将来的に起業を選択肢に入れている方にとって、この上ない経験が積めるでしょう。新しい事業のタネを見つけ出し、泥臭く関係性を築きながら花を咲かせることが求められるため、常にアンテナを高く張り続け、コツコツと努力できる特性を持つ方には最適なポジションです。

トレーディング

多くのプレイヤーを巻き込みながらスピード感を持って進めていく必要が求められるポジションです。多くの関係者の中でリーダーシップを発揮して進めていく側面と、上手く利害調整をしていく側面を併せ持っている必要があります。これは事業投資、経営でも求められる部分ではありますが多くの人と協業する必要性がひときわ高いのが総合商社の特徴です。

コーポレート

本ポジションも他領域同様、多くのプレイヤーを巻き込む必要性が高いです。ただし、その他ポジションが社外との関係構築が多い一方で本ポジションは社内をどれだけ良くしているかという要請が強いです。自社をより効率的に運営できるようにすることで大きな社会への価値貢献につながると捉え、行動できる人材に向いているポジションとなります。

【キャリアパス】

社内のキャリアパスとしては、営業やコーポレートなどを幅広く経験しながら10、20年をかけて子会社や投資先の経営に関わる「経営人材」への成長を目指していくのが一般的です。また、社外のキャリアパスについては他業界では同業種内での転職が一定数占めますが、総合商社間での転職はあまり多くないのが特徴的です。

「経営人材」を指向してキャリアを歩む人が多い中で人気なのは戦略コンサルやファンドといった経営に深く関わっていく領域への転職です。そのほかにFASで財務、会計領域で専門性を育むケースが一定数みられます。

また成長環境を求める中で待遇を大きく下げてでもスタートアップに参画するケースも見られるようになりました。スタートアップでは営業のみならず、事業開発や事業運営の経験を積んでいき将来の起業を目指すパターンです。

以上が総合商社業界の概要とキャリアパスになります。業界の特性や自身のスキル、興味を考えながら、自分に最適なキャリアを模索してみてください。