転職することが一般的になりつつある中で、自分の将来やキャリアについて悩むことは誰しもが経験することだろう。
ライフスタイルやライフステージの変化に伴い、キャリアについての考え方も揺れ動いていくものである。
しかし、そもそも「キャリア」という言葉が何を意味するのかを立ち止まって考えたことのある人は、意外と少ないのではないだろうか。
今回は、この根本的な問いについて改めて考えてみたい。
何者かになってしまうことへの恐れ
突然だが、あなたは今の仕事に対して天職だと感じ、一生この仕事を続けたいと自信を持って答えることができるだろうか。
自信を持って「はい」と答えられる人もいるだろう。
しかし、自分の仕事に対して何の不安もないという人は少数派であり、筆者の経験則から言えば、仕事がうまくいっている人もそうでない人も、程度の差こそあれ何らかの悩みを持っている。
特に、仕事にも慣れてきて自分のスタイルを確立しつつある20代後半から30代前半くらいの層は、何とも言えない漠然とした将来への不安を抱えていることが多い。
この不安をあえて言語化するならば、「何者かになってしまうことへの恐れ」だと言えるのではないだろうか。
新卒の就職活動や社会人1年目のときは、何にでもなれるような可能性の広がりを感じていたはずである。
しかし、ある程度自分のできることとできないことがわかってくると、その可能性が徐々に小さくなり、閉ざされていくような感覚に陥ってしまう。
何にでもなれる気がしていた数年前とは明らかに何かが違うことに気づき始めるのである。
このとき、多くの人は「自分はこのまま今の仕事を続けていてよいのだろうか」「もっと自分に合った道があるのではないか」という問いに直面する。
輝かしい、自分らしいキャリアをつかみ取ろうという理想と、目の前の現実とのギャップが焦りを生み、漠然とした不安へとつながっていく。
転職を考えるきっかけとして「将来が不安だから」を挙げる方は非常に多いが、その不安の正体はまさにこの感覚であることが少なくない。
転職を考えるきっかけとして「将来が不安だから」を挙げる方は非常に多いが、その不安の正体は、まさにこの「何者かになってしまうことへの恐れ」であることが少なくない。
しかし、この恐れは決してネガティブなものではなく、自分のキャリアを真剣に考え始めたことの証でもある。
大切なのは、この不安を放置するのではなく、自分のキャリアを見つめ直す契機として活かすことである。
不安を感じているということは、現状に甘んじず、より良い自分でありたいという向上心の表れなのだから。
キャリアとは轍である
キャリアとは、自分の手でつかみ取りにいくもの、完成させなければならないものだと思い込んでしまいがちだが、少し考え方を変えてみて欲しい。
前述の漠然とした不安は誰もが持つものであり、あなた1人だけの悩みではないことをまず知っておいて欲しい。
そもそもキャリア(career)とは、日本語で経歴や経験と訳される言葉である。
その語源はラテン語のcarrusにあり、この言葉は「轍(わだち)」を意味する。
轍とは、馬車などが通った後に地面に残る車輪の跡のことだ。
つまり、キャリアとは自分の前に伸びていく道ではなく、自分が歩んできた人生を振り返ったときに、努力や成果、周囲に与えてきた影響として残されているものなのである。
この語源を知ると、キャリアに対する見方が大きく変わるのではないだろうか。
キャリアには何か決まりきった正解があるわけでもなく、どこかのタイミングで完成するようなものでもない。
充実したキャリアとは、充実したこれまでのプロセスそのものだと言える。
このように考えると、キャリアについて思い悩むときに未来ばかりを見通そうとしたり、世間や他者が良いとする価値観に安易に流されたりすることの危うさが見えてくる。
大切なのは、他者の物差しではなく、自分自身の歩みの中に価値を見出すことである。
キャリアについての捉え方を正しく理解した上で、自分の歩みに対する振り返りをしっかり行うことが、理想のキャリアを考えるための出発点となるのだ。
未来を予測しようとするのではなく、自分がこれまで何を大切にしてきたかを理解することで、進むべき方向は自ずと見えてくるものなのである。
キャリアは振り返りの中から見えてくる轍であり、未来を完璧に予測する必要はないのである。
自分の轍を見つめ直すということ
キャリアが轍であるならば、まず取り組むべきは自分がこれまで歩んできた道を丁寧に振り返ることである。
仕事で成果を出した経験、困難を乗り越えた経験、誰かの役に立てたと感じた瞬間、逆にうまくいかず悔しい思いをした出来事。
そうした一つひとつの経験の中に、自分が大切にしている価値観や、自然と力を発揮できる領域のヒントが必ず隠れている。
振り返りの際に有効なのは、単に「何をしたか」だけでなく、「なぜそれに取り組んだのか」「そのとき何を感じたのか」まで掘り下げることである。
行動の背景にある動機や感情にこそ、自分の本質的な志向性が表れるからだ。
たとえば、チームをまとめる役割にやりがいを感じていたならば、マネジメントへの志向があるかもしれない。
一つの領域を深く追求することに充実感を覚えていたならば、スペシャリストとしてのキャリアが合っている可能性がある。
困難な状況で周囲をまとめることに力を発揮していたならば、リーダーシップが自身の強みかもしれない。
このように、過去の経験を「何をしたか」ではなく「何に心が動いたか」という視点で振り返ることで、自分の本質的な志向性が明確になる。
想定通りに歩んできた部分もあれば、思いがけず道を外れた部分もあるだろう。
しかし、それらすべてが自分だけの轍であり、今後進むべき方向性を照らすヒントとなる。
もし今、キャリアについて漠然と悩んでいる状態であれば、一旦立ち止まり、自分がこれまで成し得てきたことをじっくりと振り返ってみて欲しい。
自分の歩んできた足跡を正しく理解し、そこから見える強みや志向性を言語化することで、次の一歩を踏み出す確かな基盤が生まれるはずである。
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