筆者がエージェントとして活動する中で、最も多く聞かれる質問が「自分が何をしたいかがわからない」というものである。

キャリアプランを考える上で、その中心となるのは将来何を成し遂げたいかという問いだが、明確な答えを持っている人は意外と少ない。

キャリアプランと聞くと、精緻な人生設計を立てなければならないと身構えてしまう方も多いが、実はもっとシンプルな出発点がある。

しかし、最初から完璧な計画を立てられる人などほとんどいないのが現実である。

今回は、キャリアプランの第一歩として最もシンプルかつ効果的な考え方を紹介したい。

「何をしたいかがわからない」という悩み

転職相談の場で「やりたいことは何か」と問うと、多くの方が言葉に詰まる。

日々の業務に追われる中で、自分の将来像について腰を据えて考える時間を取れていない人がほとんどだからである。

朝早くから夜遅くまで目の前の仕事に全力で取り組んでいると、ふと立ち止まって自分の人生を俯瞰する余裕はなかなか生まれない。

また、キャリアプランと聞くと「10年後にどうなりたいか」「人生の最終目標は何か」といった壮大な問いを想像してしまう方も多い。

こうした大きな問いを前にすると、かえって思考が止まってしまうのである。

さらに、世の中に溢れるキャリア論や成功者のインタビューを見て、自分にはそこまでの明確なビジョンがないと感じ、余計に焦りが生まれてしまうことも少なくない。

「将来の夢」と言えるようなものを持っていない自分はダメなのではないかと、自己否定に陥る方もいる。

しかし、キャリアプランの出発点はもっとシンプルでよい。

複雑に考えすぎるあまり一歩も踏み出せないよりも、直感的でもよいから方向性の手がかりを掴むことの方がはるかに重要である。

完璧な答えを出す必要はなく、「なんとなくこっちの方向」という感覚を持てるだけでも、大きな前進なのだ。

キャリアについて考える際に最も避けるべきは、「考えすぎて何も動けない」という状態に陥ることである。

人になんと紹介されたいか

筆者が提案する最もシンプルなキャリアプランニングの方法は、「人になんと紹介されたいか」を考えることである。

たとえば、「ディズニーを作った〇〇さんです」「Googleの日本代表の〇〇さんです」「世界一の経営者の〇〇さんです」。

こうした紹介のされ方を想像したとき、自分がどれだけピンとくるか、心から誇りを感じられるかという観点で考えてみて欲しい。

「ベンチャーキャピタリストの〇〇さんです」ではしっくりこなくても、「ベンチャーキャピタルのあり方を変えた〇〇さんです」にはしっくりくることもあるだろう。

このように、具体的なイメージをいくつか並べてみると自分の中の法則が浮かび上がってくる。

大きなインパクトのある仕事がしたいのか、消費者に広く知られる事業に関わりたいのか、特定領域のプロフェッショナルとして認められたいのか、昔からの大企業の社長になりたいのか。

紹介のされ方を通じて、自分が無意識に大切にしている価値観や志向性が自然と浮き彫りになるのである。

紹介像を考えるときに自分の感情が動く瞬間に注目して欲しい。

ワクワクする紹介像と、なんとなくピンとこない紹介像の違いにこそ、自分の本質的な志向性が隠れている。

このとき重要なのは、現実的かどうかをいったん脇に置いて考えることだ。

実現可能性のフィルターをかけた瞬間に、発想は小さくまとまってしまう。

あくまでも自分の本心が何に反応するかを探る作業として、自由に想像を膨らませることが大切である。

肩書きよりも「何を成し遂げた人か」で紹介されたいのか、それとも「どこの誰か」で紹介されたいのかでも、その人の志向性は大きく異なってくる。

また、紹介像の中にどのような言葉が含まれるかにも注目して欲しい。

「変えた」「作った」「育てた」「支えた」といった動詞の違いに、自分が求めている役割のヒントが隠されている。

また、身近な成功者や尊敬する人物を思い浮かべてみるのも効果的だ。

「あの人のようになりたい」と感じる理由を分析すると、自分の理想のキャリア像がより具体的になってくる。

紹介像は抽象的なものでよい。

重要なのは、その紹介像に触れたときに自分の心が動くかどうかであり、論理的に正しいかどうかではないのである。

紹介像から逆算するキャリアプラン

紹介像が見えてきたら、次はそこに至るまでの道筋を逆算して考えていく。

キャリアの最終地点とも言えるイメージが定まれば、今の自分との距離が明確になる。

その距離を埋めるために、どのような経験を積み、どのようなスキルを身につけるべきかを具体的に検討できるようになるのである。

もちろん、紹介像は一度決めたら変えてはならないものではない。

キャリアを歩む中で新たな経験や出会いがあれば、紹介像も自然と変化していくだろう。

大切なのは、現時点での自分の方向性を仮でもよいから言語化し、日々の行動の指針とすることである。

方向性が定まっていれば、転職先の選定においても「この会社の経験は紹介像に近づく一歩になるか」という判断基準が生まれ、意思決定が格段に速くなる。

方向性が定まっていれば、日々の仕事の中でも「これはキャリアプランに沿った経験だ」と意味づけができるようになり、モチベーションの維持にもつながる。

松下幸之助は当初あんみつ屋を開こうとしたが、奥様がそれを止めたという逸話がある。

奥様には、松下幸之助がどういう人間で、どのような仕事をしていると「彼らしい」のかというイメージがあったのだろう。

このように、自分だけでなく身近な人と一緒に考えてみることも非常に有効な手法である。

自分では気づかない特性や強みを、パートナーや親しい友人が鮮明に見ていることは珍しくない。

他者の目を通した自分像は、自分では気づけない新たな可能性を示してくれることがある。

本格的にキャリアプランを練るには、将来像を定義した上でそこに至る道筋を検討する必要があり、実際にはもう少し腰を据えて取り組むことになるだろう。

しかし、「人になんと紹介されたいか」という問いは、その第一歩として極めて効果的である。

忙しい日々の中でもほんの数分あれば取り組むことができるため、ぜひ一度、自分の理想の紹介像について考える時間を作ってみて欲しい。