寄稿エージェント: 白石 拓也

2020年3月あたりから日本でも新型コロナウイルスが猛威を振るうようになり、急激にリモートワークへの移行が余儀なくされた。そこから約1年が経過したが、この1年間で転職市場はどのよう変化したのか振り返ってみたい。

2020年4月の緊急事態宣言後は求人が大幅に減少

2020年4月の緊急事態宣言により、人々の生活は大きく制限されることになった。

それまで比較的好景気トレンドであった転職市場も求人数は大きく減少し、業界を問わず、全体的にマイナスの影響を受ける業界ばかりであった。

特に、航空、鉄道、旅行、飲食、販売、サービスといった業界は大きな打撃を受けた。通常の業務を行うこともできないレベルのため、社員の稼働を制限し、給料も大きく下がった。

それゆえ、これらの業界は採用を継続することが難しく、内定が出ていた人も内定取消になってしまうこともあり、非常事態であった。

また、広告・メディア業界も大きく業績を落とし、採用も一時的に大きく悪化した。各業界で業績が悪化したため、広告宣伝費を抑える動きが強くなり、広告・メディア業界に大きなマイナス影響を与えた。

このように2020年4月は大きなターニングポイントとなり、それまで増加傾向であった求人数は全業界大きく減少することになった。

業界によってそのダメージに大小はあるものの、新型コロナウイルスが収束する目途や先行きが見えない状態のため、各企業は採用を大きく絞ることになった。

2020年8月の第二波到来で下降トレンド一旦ストップ

緊急事態宣言の中で各企業はリモートワークへ急激に移行する必要があったため、年度始まりのプロジェクト開始ができないなど、しばらく求人数の下降トレンドが続く。

新型コロナウイルスの影響は各業界で大小があったのに加えて、リモートワークへの対応も大きく明暗が分かれた。

例えば、IT・インターネット業界やコンサルなどコロナ以前からリモートワークに対応しているような業界ではリモートワークへの環境移行にそれほど時間はかからなかった。

Web会議ツールなど既に導入されているインフラがあるため、多少の不便があったことは間違いないが、業務遂行できないレベルではなかった。

一方で、 IT・インターネット業界やコンサル においても採用オペレーションが混乱してしまい、一時的に採用をストップせざるを得ない状況があった。

世界的な不景気としては2008年のリーマンショックが挙げられるが、日本における新型コロナウイルスの影響はリーマンショックほどは転職市場にダメージを与えていない。

リーマンショックのときは約1年間、求人数が減少傾向となったが、コロナの場合はコロナ第二波の8月あたりには一旦減少傾向が底打ちとなり、求人数の減少幅も小さい。

これは業界ごとにコロナの影響は大きく異なり、特にIT・インターネットといった情報カテゴリーに分類される業界の求人が回復傾向に転じたことが大きな要因と言える。

DX推進のトレンドが加速する

2020年夏秋あたりで求人数の減少傾向が一旦底打ちし、それ以降は緩やかに回復傾向にある。

業界によってその回復度合いは異なるが、各業界・各社コロナ禍での業務運営がある程度軌道に乗ってきたこともあり、2021年2月の緊急事態宣言は2020年4月ほどの衝撃は走らなかった。

中長期的にWithコロナでビジネスを進めていく基盤が出来上がりつつあり、各社採用活動もWeb面接を中心として、リモート採用への対応が完了している。

さらに、各業界・各社がリモートワークを進める中でDX(デジタルトランスフォーメーション)やITの高度化というテーマは大きな経営課題となってきている。

リモートワークに伴う新システムの導入、サイバーセキュリティ、ITガバナンスといったテーマの対応が急務となり、それらを支援するようなSlerやコンサルティングファームにはコロナ以前よりもむしろ需要が高まっている。

また、リモートワークに伴う組織再編、人材配置、人事評価制度の見直しなども課題としては浮き彫りになってきており、これらの課題を解決して欲しいというニーズも高まってきている。

このように新型コロナウイルスによって、転職市場が大きく冷え込んだことは間違いない。一方で、現在は全体的に回復傾向になりつつあり、業界によってその回復度合いは大きく異なる。

転職市場全体の傾向を把握しつつ、自分が今いる業界、これから転職を考えている先の業界など、より詳細に傾向を理解しておくことが重要になるため最新の情報を入手しておくことをおすすめしたい。