(左)EY Japan株式会社  Technology Consulting パートナー 忽那 桂三様

(右)株式会社アサイン 取締役 奥井 亮

SIerからコンサルタントへ

奥井
EYに入社される前のご経歴について、教えてください。

忽那
私はソフトウェア会社でSIerとしてキャリアをスタートさせました。ベンチャー企業だったので、営業、システム開発、開発後のフォローアップなど幅広く経験させてもらいました。その後、ミリ秒を争うような高いシステム要件を求められる金融に惹かれていきました。

金融の世界に飛び込んだ当時、とある証券会社が日本で初めて「ネット証券」を始めたのですが、そのシステムを手がけたのが、私のいた会社でした。アメリカにも拠点があり、私もサンフランシスコに渡米してシリコンバレーの技術者たちと一緒に開発しました。当時は、稼働中のシステムに問題が起こったときに他のサーバーが引き継ぐミドルウェアがなかったため、スクラッチで開発しなければならず、相当鍛えられましたね。

鍛えられたのは、技術面だけではありません。どういうビジネス要件があったらどんなビジネスコンポーネントが必要で、どう連携をさせるか。その全体のユースケースを私が定義していって、それぞれのコンポーネントを各チームに配分してプロジェクトを組成する。そういったアーキテクトのような業務もやっていました。

そのため「システム開発のことなら何でも任せてくれ」と思っていましたが、経験を積むうちに、ぽっかり穴が開いているところに気づきました。自分がすべてをやっているように見えて、結局のところ、本当にイニシアチブを持っていたのは私ではなく業務の担当者でした。ビジネス要件を彼が決めて、システム的に落としやすく、効率が良くて確実な方法を作るのが私の役割でした。そこに気づいてからは、「仕事においてイニシアチブを取れるようになりたい」と思うようになりました。

悩みは、もうひとつありました。自分の当時の立ち位置というのは、実はお客様のビジネスからとても遠く、あくまでも自分は使われる立場だったということです。頼まれたシステムを作って売るだけではなく、さらにお客様に近い立場になりたいと思っていたときに、プラントエンジニアリングの会社からオファーを頂きました。

それまで勤めていた会社と大きく違ったのが、プラント会社はベンダーマネジメントで動いているということ。システム開発を請け負うけど、そのシステムを自分たちでは作らない。実際に作ってくれるベンダーを調達してマネジメントしていく。ここはとてもEYに似ていて、システム開発自体ではなく、お客様のよりハイレベルな課題を解決するために動いています。

そんな、よりお客様に近い目線での仕事を楽しんでいた頃、前職の知人からEYに誘ってもらいました。

奥井
コンサルティング会社ではなく、事業会社でシステムを理解しながらビジネスサイドに入っていくという選択肢は考えませんでしたか?

忽那
いい質問ですね。事業会社の選択肢はありませんでした。事業会社は何をやるにせよ予算が組まれていて、その予算内でしか動けない。コンサルティング会社は、いろいろなお客様とお付き合いができて、事業会社よりも幅広く面白いビジネスに携われると考えました。

他社と一線を画すEYの魅力「コラボレーション」

奥井
他のコンサルティング会社も検討されたと思うのですが、どういうポイントでEYを選んだのでしょうか。

忽那
他社にはなかった「コラボレーション」ですね。監査法人のメンバーと一緒に仕事をするなど、他社では予算の組み方が分かれていてできないことも、EYではそれを越えた動きができる。

入社当時はEY新日本のメンバーとの仕事が多く、彼らと一緒に仕事をすることがコラボレーションとして楽しみでした。監査法人のメンバーはテクノロジーの専門家ではないので、その分野で困ったことや相談事があると「IT分かるよね、忽那さん!」と声をかけてもらって、嬉しかったです。

「One EY」という言葉があって、グローバル含めて、EYみんなが力を合わせてマインドを高めようとよく発信していますね。

奥井
「One EY」いい言葉ですね。 EYは、スローガンにわかりやすく名前を付けていて、だから浸透しているなと感じます。

忽那
そうですね。入社前にそういうEYならではの文化も聞き、魅了されました。同じ社内でも部門が違うだけで、一緒にプロジェクトを進めていくのはどうしてもハードルが高くなりがちじゃないですか。でもEYには「One EY」という言葉が浸透しているからスムーズにできてしまう。他社とは全然違うなと感じましたし、実際に他社じゃできないであろうことが、EYでは実現できています。

複雑化するクライアントニーズに応えるために

奥井
ITの知見を持つ人材の採用が増えているとお伺いしています。背景となっている、クライアントニーズの変化や、EYとして注力されているテーマなどをお伺いできますか。

忽那
一言で「DX化」と言っても、課題はより複雑になってきています。日本でもオートメーション、クラウド化、データを活用することに抵抗が無くなってきましたよね。そのデータの活用方法は、新規事業をおこす、マーケティング、犯罪予防、新薬開発など多岐に渡ります。それぞれいろんなシーンで、データをよりパーソナライズする必要がある。それには、やはりコラボレーションが有効です。

私たち、テクノロジーコンサルティングのチームにはDNA(データ アンド アナリティクス)ユニットがあり、博士号レベルのAIスペシャリストたちがいます。複数のチームが協力することで、複雑化している課題に対応ができる。コラボレーションをより一層活性化させることで、クライアントニーズに応えていけると感じています。

データアナリティクスのこれから

奥井
昔から言われていたデータ活用が今受け入れられてきているのは、コロナ禍により物理的接触ができなくなったことでテクノロジー活用の機運が高まり、加速したのでしょうか。

忽那
「コロナ禍で」というのは、私はあまり実感がありません。データを活用するためには、当然もともとのデータの品質が良くなければいけないですが、昔はそもそものデータがちゃんと残っておらず活用が難しかったのではないでしょうか。品質というのは、「どういうタイミングで」「どういう粒度で」「誰が作ったのか」というのが特に大切で、それがこれまでは整っていませんでした。そんな杜撰なデータであるということに企業が気づき始めたのは7年前くらいです。データを活用するべきだという意識は以前からありましたが、やっと取り組める状態になってきたのがここ最近の話なのかなと思います。

奥井
今後、データ活用のアナリティクスというのは、どうなっていくのでしょうか。もう少しパッケージ化・簡易化されていくのでしょうか。

忽那
集まったデータをPythonやR言語を使って分析する技術者がいますが、そのさらに前にはモデラーという人たちがいます。どういうデータがどんなクオリティで、どんなタイミングで誰が作ったものなのか。それを実際に見ながら、どう組み合わせたら求めたい答えが出るのか。それを紡ぎだせる人たちがモデラーです。

モデラーの仕事を、機械が学習することで自動化できるかというと、私は難しいと考えています。AIが出始めて7年経っても、いまだに自動化は進んでいません。もしかしたら20~30年経ったら実現するかもしれませんが、まだ10年くらいは難しいでしょう。

奥井
なるほど。経験だけではなく、「経験×勘」というのがあるから難しいですね。ロジカルにいかない、「刑事の勘」のようなものが必要ですね。

忽那
その通りです。データアナリティクスというのは、満足のいく答えが出るかどうかが結果であり、どのデータからどのような分析を始めるかは効率に大きく影響します。それを判断できるのはモデラーだけです。

EYが他ファームと違う3つの特徴

奥井
EYと他のコンサルティング会社との違いを教えてください。

忽那
3つあります。1つ目は「Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」、我々のパーパスです。2つ目はコラボレーション、3つ目はグローバル。この3つは他ファームと違って特出しており、我々が最も大切にしている特徴です。

奥井
EYのパーパス「Building a better working world」について教えてください。

忽那
クライアントの本質に応え、社会に貢献する。そのクライアントだけが満足するだけでは十分でなく、その先にある社会に貢献できることを考える。それを我々の喜びとするということですね。

奥井
2つ目は、先ほど伺ったコラボレーションですね。

忽那
はい。私が入社を決めた理由でもありますが、EYが他ファームと違う一番のポイントは、やはりコラボレーションだと思います。

昨今、お客様の課題がより複雑化している中で課題を提示されたとき、ひとつのユニットだけでは解決できません。他ファームの場合「この課題のこの部分は、我々はこんなふうに解決できますよ」という切り取り方をすることも多いと思いますが、それはお客様にとっては「ここの部分は上手くいったけど、全体としては解決していないよね」という腹落ちしない提案になってしまいます。しかし、EYではあらゆる専門性を持った複数のユニットがコラボレーションし、一緒に課題に向き合うことで、全体的に課題を解決できます。

奥井
コラボレーションは、案件が発生した時点から始めるのでしょうか? それとも途中から?

忽那
両方ありますが、大抵は案件が確定する前の提案段階からですね。

奥井
案件が取れたら合流するというのが一般的かと思うのですが、取れるかわからないのに足を運ぶ、コラボレーションするというところがEYの文化なのでしょうね。

忽那
私にとっては、EYの協力体制が当たり前になっていますが、他ファームから移ってきた人は、驚かれるかもしれません。

私がパートナーだからというのもあるのかもしれませんが、予算については事前にコラボレーションを見据えて、すごく考えますね。提案に行く段階からコラボレーションを構想に組み込むことで、彼らにきちんと予算配分でき、思う存分活躍してもらえます。

奥井
クライアントからの要望をどうコラボレーションするかは、忽那さんが「このセクターやソリューションのチームが良い」と判断してから声をかけるのでしょうか。

忽那
はい。コラボレーションは「誰もがそこでプロフェッショナルじゃなきゃいけない」という厳しい面もあるので、声をかけるのは簡単ではありません。実際にやってみて適していないスキルだとそのコラボレーションは不成立になってしまうので、それなりの能力もスキルも発揮できないといけません。ですから、コラボレーションを発信する側が「誰に声をかけたら一番いいコラボレーションになるか」のプロジェクト設計をしっかりと考えないといけません。

奥井
なるほど。コラボレーションする面白みでもあり、難しさでもあるんですね。対社外がプロフェッショナルなのは当たり前ですが、社内でもプロフェッショナルであるというのが面白いですね。

忽那
新しくEYにジョインしてくる人たちは、まだコラボレーションに対する感覚がないので、ひとつひとつ紐解いてあげなければいけない。そうしているうちに、おのずとEYカルチャーができてくると考えています。

奥井
3つ目のグローバルについて、具体的な強みなどあれば教えてください。

忽那
ある企業の提案を仕掛けるときに、EYでの事例を求められましたが、EY Japanだとその事例の件数が限られていました。でも、他国のメンバーファームに声をかけたら多くの回答が返ってきて。EYはメンバーファーム間で情報共有ができる体制が整っているので、説得力のある実績事例がすぐに集められるのは強みですね。もちろん「One EY」でグローバルとのコラボレーションも可能なところも強みだと思います。

奥井
ありがとうございます。SIerとしてキャリアを積んできた忽那さんだからこそわかるコンサル業務の魅力やEYの文化についてよく理解できました。後編では、SIer出身の方がどのようにEYで活躍されているのか、EYで求めていらっしゃる人物像などについて伺いたいと思います。
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