この記事では、Sler業界について語るとともに、主要なプレイヤー、業務内容、適性、そしてキャリアパスについて解説します。

【業界トレンド】

昨今のSIer業界では、AI技術の高度化への対応が加速しており、特に「生成AIの活用」への取り組みに注目が集まっています。

生成AIとは、ディープラーニングや自然言語処理の手法を用いて、画像、音声、テキストなどのデータを生成するための技術をさしますが、Chat GPTをはじめとする生成AIの進化は凄まじく、幅広いビジネスシーンでの積極活用が期待されており、SIer企業の具体的な取り組み例としては、下記のようなものが挙げられます。
・自然言語処理に基づくテキスト・画像・音声の生成に関する技術開発
・医療分野における画像解析や診断支援、製造業における生産プロセスの最適化
・データ分析や予測モデリングによるビジネス上の意思決定のサポートや市場動向の予測

個々の業務効率化だけでなく、組織業務や経営支援に至る幅広い活用が期待される一方で、生成AIの活用にあたっては、論理的側面や法規制への対応、データ品質やセキュリティ確保といった課題への対処も必要です。 そのためSIer企業には、こうした課題に対処しながら、スピード感を持って既存サービスとの連携を進め、さらなる生成AIの実用化に向けた研究開発を行うことが求められます。リスクを抑えた上で、イノベーションを加速するための取り組みをいかに持続的に行えるかが重要となります。

【主要プレイヤーと特徴】

【主な職種の業務内容】

営業

Sler業界における営業職はさらに下記に二分されます。

・アカウント営業

特定の法人顧客を担当し、課題を引き出しその課題に対する解決策を提案します。提案は、自社の既存ソリューションに限定されず、必要に応じて新規開発を行うこともあります。また、提案から施策実行に至るステークホルダーのスケジュール調整も行います。

・ソリューション営業

法人顧客の課題に対して、自身が担当するITソリューション(ネットワーク、セキュリティ、ソフトウェア、ハードウェア等)の提案を行います。既存顧客だけでなく、担当商材がマッチする新規顧客の開拓も行います。案件獲得後は、アカウント営業に案件を引き渡すケースも多く、アカウント営業との連携も求められます。

エンジニア(ネットワーク、セキュリティ、データサイエンス、システム)

システムの受注を受け、要件定義、導入、保守、運用を行います。SIerはシステムの元請けとなるため、WBSを書いてプロジェクト全体をマネジメントする役割を果たし、具体的な開発・実装は子会社や孫会社等の下請けへ委託することが多いです。扱う商材は自社製品に限らず様々であり、他社システムを購入してカスタムして導入するケースなどもあります。

研究開発(ソフトウェア、ハードウェア、R&D)

最先端テクノロジーを生み出し、実用化するための基礎研究や技術製品化のための応用研究、多種多様な製品の開発を行います。

コーポレート(人事、総務、財務経理、法務、広報、購買)

社内のビジネスパートナーとして、各領域に特化した業務を行います。組織体制は企業により異なりますが、事業部を限定せず組織全体を見る部隊と、各事業部・事業所・職種ごとに特化した業務を行う部隊とに分かれるケースが多いです。

【職種別適性】

営業

・アカウント営業

ある程度、規模のシステム投資が可能な顧客がターゲットとなるため、大手顧客を相手にすることが多いですが、小規模案件の担当もあります。いずれの場合も、中長期的に顧客のIT戦略に関わりたという志向を持ち、リレーションの構築がうまく、日頃のコミュニケーションの積み重ねを大切にできる人には向いています。

一案件の期間が長く、関わるステークホルダーの人数も多いため、各方面とコミュニケーションをとり、納期通りにスケジュールを調整していく力が求められます。

・ソリューション営業

担当ソリューションに特化した営業となり、提案先が限定されないため、無形商材の営業スキルを身につけたいという人には向いています。また、担当する製品やマーケット動向に対しての理解が求められるため、IT商材への興味関心を持ち、知識をインプットし続けられることも強みとなるでしょう。また、ターゲット顧客をリストアップし、どのようなアプローチで商談へ繋げるかを考える必要もあるため、マーケティング要素も求められます。

システムエンジニア(ネットワーク、セキュリティ、データサイエンス、システム)

大手SIerは元請けという立ち位置上、システム開発や実装といった専門性の高いスキルよりも、プロジェクトマネジメント力が求められます。そのため、一定のコミュニケーション力があり、人を動かすことができる人には向いています。また、専門性が高く複雑な内容を、プロジェクトメンバーに説明する必要があるため、相手に応じてわかりやすい言葉に変換する力も必要となります。

加えて、各工程にかかる作業工数を正しく見積もり、適切な進捗管理を行うことが求められるため、開発経験等があればより正しく工数を把握でき、プラスに働きます。ただ、エンジニアスキルについては、特に大手の場合、未経験からでもシステムエンジニアを養成する研修環境が整っているため、理系・文系やスキルの有無を問わずシステムエンジニアへの挑戦が可能です。

研究開発(R&D)

他業界の研究開発職同様、成果が出るまでの時間がかかるため、粘り強く取り組む根気が必要です。加えて、最先端技術・領域に対する強い関心と学習意欲を持っている人が向いています。

コーポレート

業界問わず専門性を身に着けたい人には向いています。また、比較的拠点異動が少ない職種であるため、腰を据えて長く働きたいという方にも向いているといえます。社内の多くの部門と連携して進める仕事が多いことから、コミュニケーション力の高さや、組織内の調整力に長けていることも強みとなります。

【キャリアパス】

営業職・システムエンジニア職については、プロジェクトマネジメント力を高め、①社内でキャリアアップ ②同業他社への転職 ③コンサルティング業界への転職 というキャリアパスが考えられます。システムエンジニア職については、稀なケースではありますが、培った専門性を活かしてGAFAやその他IT企業への転職するケースもあります。大手SIerはシステムの元請けという立ち位置上、システム開発や実装といった専門性の高いエンジニアスキルよりも、プロジェクトマネジメント力やIT知識を強みとしたキャリア形成になる事が多いです。

コーポレート系職種については、他部署への異動や拠点の異動はなく、同職種の専門性を極めるキャリアパスとなることが一般的です。日系企業の場合、海外の主要拠点のコーポレート機能には本社から人を配置することが多いため、海外駐在の可能性も一定程度あります。

研究開発職については、基本的には研究開発職としてキャリアを積み、自身の研究領域を極めて商材化を目指すキャリアパスが考えられますが、競合優位性の高い重要商材に携わっている場合には、研究開発に加えビジネスプロデュース等の役割を担う可能性もあります。

研究開発職以外について、スピード感をもって成長実感しにくい、課題が顕在化した状態ではなく潜在課題の特定から関わっていきたい等の考えから、20代のタイミングでコンサルティングファームや異業界へとキャリアチェンジを図る方が増えてきています。

以上がSler業界の概要とキャリアパスになります。業界の特性や自身のスキル、興味を考えながら、自分に最適なキャリアを模索してみてください。