中央大学を卒業後、SMBC日興証券での営業経験を経てソムリエへと転身された尾池さん。

ソムリエへ転身するきっかけとなったのは、両親の言葉とのこと。

尾池さんの座右の銘である『走馬燈で後悔しない人生』、これを体現する彼の生き方を伺ってきました。

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――――自己紹介をお願いします

尾池 宏輔と申します。

中央大学法学部を卒業して新卒でSMBC日興証券に入社し、個人営業を主に担当していました。

現在は目黒にある『ラ メゾン ダミ』というビストロでソムリエとして働いています。

――――ソムリエをやられているのですね。あまり身近ではないソムリエについて少しお話頂けますか?

分かりました。

僕がビストロで担当していることで言えば、恐らく『ソムリエ』という単語でイメージされている通り、お客様のご要望に合わせてワインをご提案及びご提供を行っています。ご提案に際しては、ぶどうの種類や産地のご説明もします。

ソムリエというのは筆記やテイスティング等の試験に合格して初めて名乗る事が出来ます。お店などでご覧になったことがある方もいるとは思いますが、弁護士などと同じように、資格取得者には「ソムリエバッジ」が付与されます。

現在はビストロという、レストランと居酒屋の間のお店に勤めています。レストランというと、所謂マナーが厳しかったり店員がスーツを着ていたり、というような印象があると思うのですが、ビストロはそういった所ではなく、お気軽に来て頂ける雰囲気になっています。

――――ソムリエになった経緯なども気になりますが、まずは前職のSMBC日興証券で担当されていた業務について教えて頂けますか?

SMBC日興証券では基本的には個人営業を担当していました。株や債券などの金融商品を個人のお客様へのご提案がメインの業務になります。テレアポや飛び込み営業等、色々やりました。担当した個人のお客様が偶然社長だったりした場合は金融商品のご提案もしましたが、節税等に関するアドバイスなども行っていましたね。

――――1社目にSMBC日興証券を選んだ理由を教えて下さい

理由は大きく3つあります。

一つ目が、最初に内定を頂いたからです。他の証券会社や銀行等、選考が進んでいた企業もありましたが、最初の内定ということに縁を感じていたので、内定を頂いたタイミングで就職活動を終えて入社を決めました。

二つ目が、業務内容をイメージ出来なかったので面白そうだと感じたからです。

銀行に関しては、経験が無いので想像ではありますが業務内容がイメージ出来たんです。融資して利息つけて返してもらって、というような。ただ証券というのは何をしているのかが全く分からなかったんです。『株とか売ったりしてるのかな…?』というレベルで、本当にイメージが沸かなかった為、何をやっているのか知りたかったし、単純にやってみたかったんです。

三つ目が、若手の内から頑張り次第で大きい額を扱える仕事が良いと考えていたからです。

営業対象である個人の方でも、例えば個人資産何億という方は中にはいらっしゃるのは知っていて、若手の内からそういった大きい仕事に携わる事が出来ると感じたんです。自分が関わったことが無いような何千万円、何億円という額を扱ってみたいと思っていて、営業マンとして自分がどれだけ出来るのか分からなかったので、やってみようと思いました。

あとプラスアルファでお伝えするとすれば、証券会社で株に携わることによって株の知識は勿論、その企業の事や業界についても付随して学ぶことが出来るので、そういった点では非常に面白いという風に感じていましたね。当時正直な所お金儲けにも興味があったので(笑)

――――就職活動は金融業界というより、銀行と証券に絞っていたのでしょうか?

就職活動を始めた最初の頃はコンサルティングの業界も見ていました。インターンも行きましたが、やはりお金を扱うというよりそのクライアント企業のブレーンになる、というような業務内容だと認識していたので、少し違うと感じて選択肢から外しました。

あとはお金に直結する業界で言えば、商社も選択肢の中に入ってはいました。ただ、僕は当時どうしてもワイン以外の何か特定の好きな物が無かったので、選択肢から外れましたね。例えば繊維商社であれば、繊維や洋服が好きというところがあると思うんですけれども、当時僕は商社で働くイメージが沸きませんでした。

何かこう…人と同じ事はやりたくないという風に考えていたんですよね。 

世間からの見え方ではなく、自分の目線で物事を捉える

――――少し失礼な言い方にはなるのですが、『大学を出て有名な会社に入社している』尾池さんの経歴を見ると、人と同じ事をしていると感じられる方もいらっしゃると思うのですが、いかがでしょうか?

これは耳が痛い話であるんですけれども、多くの人に言われることではあります(笑)

実は就職活動の時には既にワインが好きだったので、ワインの輸出入を行っている企業も見ていたんです。ただ自分で言うのも微妙ですが…そこそこ有名な大学を卒業してワインのインポーターになるって言った時に親がどう思うか、と考えた時にインポーターになる決断ができなかった。私立の大学にまで行かせてもらったのも親の力ですし、就職を通して何か恩返しがしたいと考えていたので、この点では自分がやりたい事というよりも親孝行を優先しました。親が喜んでくれるであろう企業で、かつ自分の価値観との折り合いがつく領域ということで証券に決めました。結果的には証券会社に入社する事は全く親孝行にはなっていないのですが(笑)

なので、これに関しては自分の価値観を最優先できなかったというところではあります。自分の価値観というよりも、親に対する感謝の気持ちの方が勝ったという感じですね。

でも今では、『人と同じ事をしたくない』という少し世間からの見え方にフォーカスした考え方より『自分のやりたいことをやる』という自分目線で物事を捉えています。

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『差異がないのに差異が生まれる』飲み物はワインだけ

――――ワインはどのようなきっかけで興味を持たれたのでしょうか?

大学生の時に両親がワイン好きということもあって、実家で少し貰ったのがきっかけですね。当時は飲食店でバイトをしていたのですが、親の影響もあってどんどんワインに興味を持ち始めました。

ワインというのはブドウだけで造られているんです。ビールや日本酒などは水を混ぜたりすると思うのですが、ブドウの果汁が出るので水もいりませんし、ワインは本当にブドウだけから造られている。世界中のどのワインもブドウから作られているにも関わらず、作り方によってあれだけ味が変わるんです。地域や地方によってここまで味に差異が出るのかと驚きました。

『差異がないのに差異が生まれる』、こんな飲み物、僕はワインしかないと思っています。

――――なぜ転職をされたのでしょうか?

もう想像はついているとは思うのですが、自分のやりたい道に進もうと決めたからです。

ただ転職のきっかけになった事に関するお話をしますね。

入社して4ヵ月目に一人のお客様から総額2億円分の株式を購入頂き、同期で1位の営業成績を収めた時期がありました。ですがその年、中国ショック、つまり中国株の大暴落があったんです。それが僕の夏季休暇を取得していた時期だったのですが、この大暴落の影響で先程のお客様の資産を4,000万円も減らしてしまったんです。勿論、予測できない事ではあったのですが、その時初めて他人のお金、それも大金をお預かりすることの精神的負担を認識したんです。

上司の方や先輩は親身にフォローして下さったのですが、自分では正直耐えきれないような重圧でした。僕の休暇が明けてすぐに、お客様の所へお詫びの訪問に行ったのですが、全く怒られなかったんです。「いいよいいよ。ここから頑張ろう」って。逆に怒って下さった方が気が楽でした…。

このままではいられないということで、何とか挽回しようと努力したのですが、から回ってしまったんです。周囲の同僚や先輩、上司が心配する位がむしゃらにやっていました。それこそ、休みの日も株を見ていましたね。

こんなことを繰り返していたら、疲弊してしまいました。

両親への相談、そして涙

――――この大暴落を機に転職を決めたのでしょうか?

このタイミングで、両親に「就職活動の時には正直本音を言えなかったんだけども、ワインをやりたい」という話をしたんです

その時、「なんで先に言わなかったの、好きなことをやってよかったのに」っていう風に言ってもらえて、正直…泣きました(笑)

両親と話したことで覚悟を決められたので、すぐに会社に退職届を出しました。

――――辞めた後はどのような動きをされたのでしょうか?

2015年の10月末にSMBC日興証券を辞めてすぐに大学の時にバイトをしていた飲食店に「正社員で雇ってもらえるまで働かせて欲しい」と頭を下げにいき、バイトをしていました。

会社を辞める時に『直近のソムリエ試験で資格を取る』と覚悟を決めていたので、2016年の7月のソムリエの一次試験に向けて、バイトをしながらとにかく一生懸命勉強しました。その年のソムリエの一次試験は合格率30%程だったのですが、なんとか一次試験を通過しました。次の二次試験は一次試験と比べると合格率は高いと聞いていたので、一次試験合格を機に就職活動を始めました。

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ソムリエが介在する価値

――――沢山のビストロがある中で、今のお店に決めた理由を教えて下さい

理由は二つあります。

一つ目は、老舗とは言えないまでも5~6年やっているお店で、ある程度常連客がついているようなお店が良いと考えていたからですね。新規オープンのお店だと、お客様層も定まっていないし、お客様も定着していない状況なので、僕がやりたい事が出来ないと考えたんです。

二つ目が、当店のスタイルが大学の時に働いていた店に近かったからですね。具体的にお伝えすると、お客様としっかりとコミュニケーションを取り、きちんとワインをご説明した上で購入頂く、というようなスタイルです。

なんというか…良い意味でお客様との距離が近いんです。テーブルにワインリストだけ置いてあったら『これください』だけでコミュニケーションが終わってしまいますが、当店ではワインが置いてある棚までお越し頂いた上でお客様とお話しすることが出来ます。お客様からも『プロのソムリエの話を聞ける』ということでご好評頂いていますし、僕はこのコミュニケーションに価値があると思っているんです。

ビストロというのは実は『庶民の為のフレンチ』なので、お教えできる内容の幅が広いという観点では、ワイン等に詳しくない方のほうが、私としては楽しいですね。勿論、ワインやフレンチに明るい方との会話も刺激があって非常に楽しいですよ。

――――では色々なお店を見た中で今のお店に決められたということですね

5、6店舗見ましたね。

僕の場合は立地やオープンしてからどの程度経っているか、お客様の層と言う点を見ていたので、かなり限定して見ていました。

お客様の層というのは、例えば凄く明るい雰囲気でワイワイ飲んでいる、とかとても活気があるとか、ですね。僕はお客様と落ち着いたコミュニケーションを取りたいと考えていたので、これも重視していました。

立地に関して言えば、目黒というのは観光地ではないので、通勤や帰宅以外で行く方ってあまりいないと思うんですよね。そういった中で、わざわざ予約してきて下さるお客様や、雰囲気につられてふらっと来店されるお客様との会話を楽しみたいんです。

――――今後やりたいことを教えて下さい

修行というレベルではありませんが、3年後くらいに時間を作ってフランスに遊びに行きたいですね(笑)

フレンチというのはご存知の通りフランスの料理なので、『本場を知らないで売っていていいのかな?』という気持ちは正直あるんです。そういった意味で、遊びに行く位の感覚で本場フレンチを体感してみたいですね。

そこから本格的に修行とかは考えていきたいと思いますが、現時点では正直なところ、特に考えていませんね。まずは今のお店でソムリエとしての腕を磨いていきたいです。

――――独立などは考えないのでしょうか?

正直、やりたくないと言えば嘘になるのですが、独立欲というのはあまりないんですが、店のトップにはなりたいです。

売上の立て方から何から全部、自分がその店のやり方を決めていくというような経験を積みたいです。まずは今の店で優秀な店長やシェフのもとでマネジメントを学び、その後5、6年程店長を経験してから本当に独立するのかどうかというところを考えていくような感じですかね。

オーナーや店長の近くで見ていて、経営って本当に難しいと感じているんです。ワインひとつ取っても、自分の好きなワインと売れるワインが全然違う、といったこと良くあるので、そういったところのすり合わせは常に行っていく必要があるんです。

ビジネスにも言えると思いますが、自己満足で経営しているお店もすぐに潰れてしまいます。1年経たずに潰れてしまうビストロも沢山見てきました。

――――『VIEW』をやってみていかがでしたか?

初めてこういったサービスを見ましたが、純粋にゲームみたいで面白いと思いました。

転職するか悩んでいる方だけではなくて、皆やってみたらいいんじゃないかな?新卒就活の時にやったような『自己分析』のツールとして考えてやったら良いのではないかと思います。

とにかく自分の価値観に基づいた就業先を選んで欲しいですね。

個人的には、企業の経営者にやって欲しいですね、自分の属する業界が表示されるのか見てみたいです(笑)

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走馬燈で後悔しない人生を送る

――――やりたい事に一歩踏み出せない人に対して一言お願いします

難しいですね。

世間の目は気にしなくて良いと思うんです。

ありきたりかもしれませんが、人生って替えがきかないのだから、やりたい事をやった方がいいと思います。新卒時の就職先とかは知名度とか給与で選ぶ事もあるかと思いますが、まずは自分が本当にやりたいことを本気で一度考えてみるべきだと思います。

自分のやりたいことってそんなにすぐに見つからないと思うんです。でも見付かった場合は絶対にそっちに進んだ方が良い。

僕はSMBC日興証券から転職して実際年収は凄く下がりました。でも今は毎日が凄く充実しています。

僕の座右の銘は『走馬燈で後悔しない人生を送る』なんです。これからも僕自身が体現していきます。