現代のビジネス環境は絶えず変化しており、企業は即戦力となる人材を確保するために新たな戦略を模索している。

特に若手や中堅のビジネスマンにとって、キャリアパスは多岐にわたるが、一度退職した会社に戻る選択肢が本格的なキャリア戦略として注目され始めている。

本稿ではこうした動きに着目し、「アルムナイ採用」について、その実態をご紹介したい。

アルムナイ採用の実態と目的

アルムナイ採用とは、以前に組織で働いていた従業員を再び採用する手法のことである。この採用戦略は、多くの企業にとって貴重な人材確保の手段となっている。

特にコンサルティングファームや技術系企業ではこの手法が進んでいる。これらの業界では、専門性が高く、一度離れた従業員が他の場所で更なる専門知識やスキルを磨くことが多いため、再び迎え入れることで組織全体の能力向上につながっている。

具体的な取り組みとして、アルムナイネットワークを構築し、定期的な交流会を開催する企業もある。これにより、企業は元従業員との関係を保ちながら、彼らが戻ってくる道を常に開いておくことで、効率的に採用に繋げているのだ。

特に若手のビジネスマンにとっては、キャリア設計における有用な選択肢となりつつあるため、アルムナイ採用の目的を理解しておくことは重要である。

アルムナイ採用の主な目的は、以下の三点に集約される。

1.速やかな業務適応
元従業員は企業の文化や業務プロセスに精通しており、再び雇用することで教育期間の短縮と即時の業務貢献が見込まれる。

2.企業文化の強化
元従業員は企業の価値観やミッションを深く理解しているため、組織の核となる文化を支え、新たなメンバーへの伝達者としても機能する。

3.ネットワークの活用
元従業員は他企業や業界で新たなスキルやネットワークを築いていることが多く、これらを企業内に持ち込むことで、新しい視点やアイデアが組織内に広がる。

主要企業の取り組み

■トヨタ自動車
トヨタ自動車は早期からアルムナイ採用に取り組んでおり、2005年から「プロキャリア・カムバック制度」と呼ばれる制度を導入している。

「モビリティカンパニー」への転換を宣言して以降は、既存の発想にとらわれない多様な人材の確保が不可欠となったことで取り組みを加速し 、アルムナイ採用支援サービス「オフィシャル・アルムナイ・ドットコム」を活用して本格的にアルムナイネットワークの構築に乗り出している。

2022年に立ち上げた「トヨタアルムナイネットワーク」には、現在400名を超えるアルムナイが登録されており、ビジネスからプライベートまで様々な情報交換が行われている。

2023年9月には、アルムナイ50名と現役社員10名による交流イベントを開催するなど、継続的な関係構築が築けており、アルムナイ採用の成功につながっていると言えるだろう。

■みずほフィナンシャルグループ
みずほフィナンシャルグループは、新卒一括採用を主体とする組織でありながら、外部の知見を取り込み新たな事業創出や組織変革を促す目的で、アルムナイ採用支援サービスを導入し、2020年に「みずほアルムナイネットワーク」を立ち上げた。

このネットワークには約1,200名のアルムナイが登録されており、社内報や同社が独自に作成している産業調査レポートなどの情報が定期的に発信されている。

こうした取り組みから、2022年度にはグループ全体で約10名のアルムナイが採用されている。

■リクルート
出戻り文化(退職者の再入社を受け入れる文化)のあった同社では、「退職者=裏切り者」といった日本企業の古い固定概念を壊し、一生、仲間であり続けられる世の中に変えていきたいとの思いから、2022年、社内の新規事業提案制度を利用して退職者再雇用サービス「アルミー」をリリース。

その後、退職者採用に力を入れるため、同社の採用チームでも導入している。運用開始からわずか半年で、2,000名超えのアルムナイがシステムに登録。近年では採用実績も増え始めている。

アルムナイ採用の展望と意識すべき点

今後の展望として、アルムナイ採用はさらに広がる可能性が高い。人材の流動性が高まる中で、企業は優秀な人材を確保するために、より柔軟な採用戦略を模索する必要がある。アルムナイ採用はその一環として、非常に有効な手段となるだろう。

また、デジタル化の進展により、アルムナイとのコミュニケーション手段が多様化し、より効率的なネットワーク構築が可能となることも、この制度の拡大に寄与する要因となり得る。

キャリアを設計する上でアルムナイ採用を選択肢として残すことは、有効打となり得る。

そのためにまず重要なのは、以前の職場との良好な関係を維持することである。退職する際にはプロフェッショナルな態度を保ち、元同僚や上司と定期的に連絡を取り合うことが望ましい。これにより、再就職の機会が生じた際に推薦者が現れやすくなる。

次に、現職でのスキル向上や新たな資格の取得に励むことも重要である。特に、業界で求められる最新の技術やトレンドに精通していることは、再雇用される際の大きなアドバンテージとなる。

また、異業種での経験や国際的なプロジェクトへの参加も、以前の職場に戻る際に新たな価値を提供するための重要な手段である。

また、LinkedInなどのプロフェッショナルネットワークを活用し、業界のイベントに参加することで、可視性を高めることができる。これにより、元の会社だけでなく、他の潜在的な雇用主からの注目も集めることが可能である。

アルムナイ採用を目指すビジネスマンは、これらの戦略を実行することで、元の組織への再就職だけでなく、自身のキャリアにおいても新たな可能性を広げることができるだろう。