近年、デジタル化の波を背景に、「コンサルのSIer(システムインテグレーター)化」や「SIerのコンサル化」が進んでいる。こうした動きはなぜ起こるのかを解説し、事例として富士通社の取り組みをご紹介したい。

コンサルのSIer化とSIerのコンサル化が進む背景

デジタル化の進展に伴い、コンサルタントがIT領域に進出し、SIerがビジネス支援を強化する動きが加速している。

コンサルタントはクライアントのデジタル変革を一貫して支援するため、エンドツーエンドのサービスを提供することが求められており、これに応える形で専門チームや子会社を設立している。

一方、SIerは従来のビジネスモデルが通用しなくなり、アジャイル開発やクラウドサービスの提供を通じて、ビジネスの変化に柔軟に対応しようとしている。

しかし、SIerがビジネス支援を成功させるためには、技術力に加えてビジネスの視点を持つ柔軟な人材が必要であり、多くの企業がこの転換に苦戦している。

特に、従来の大規模なウォーターフォール開発ではビジネスのスピードに対応できず、小規模な開発を繰り返すアジャイルな手法が求められている。

こうした背景には、ビジネスの変化がかつてないスピードで進行していることがある。

クライアント企業はフルスクラッチでゼロからシステムを開発するのではなく、ビジネスの変化に柔軟に対応する開発手法を求めるようになっている。

その結果、SIerはクラウドやパッケージの提供、もしくはビジネスサイドの支援を強化する「コンサル化」を余儀なくされているが、多くの企業がこの転換に苦戦している。

このように、コンサルとSIerの境界が曖昧になる中で、両者がそれぞれの強みを活かしつつ、ビジネスとITの融合を図ることが今後の課題である。

コンサルの側では、クライアントのデジタル変革を一貫して支援するために、IT領域への進出が不可欠となっている。

一方、SIerはビジネスの視点を取り入れた支援を行うために、新たなスキルセットや柔軟な対応力が求められている。両者がそれぞれの専門分野を超えて協力し合うことで、クライアントに対してより価値の高いサービスを提供することが可能となるだろう。

富士通の挑戦:2025年までにコンサル人材1万人へ

具体的な例を1つご紹介する。富士通は2024年2月22日、コンサルティングスキルを持つ人材を、2025年度までに現状の2,000人から1万人に増員する計画を発表した。

この計画では、ビジネスコンサルタントを600人から3,000人、テクノロジーコンサルタントを1,400人から7,000人に増やすことを目指している。人材拡充の内訳は、リスキリング6,000人、採用3,000人、企業買収1,000人以上である。

富士通は新たに「Uvance Wayfinders」というコンサルティング事業ブランドを立ち上げ、このブランドの下で13の注力領域を設定した。

この新ブランドは、業種知見とテクノロジーの専門性を融合させ、各領域におけるコンサルティングプラクティスの強化を狙っている。

同社は従来の業種軸による課題解決を超え、業種を超えた社会課題の解決を目指すとしている。顧客に言われた通りに実装するのではなく、対等なパートナーとして提案する姿勢を強調している。

また、富士通は2023年8月に「Consulting CoE(Center of Excellence)」という新組織を設立し、コンサルティング人材の拡充施策を推進している。この組織は、コンサルティング事業の全体戦略策定とリスキルプログラムの実施を担っている。

具体的な施策

1.リスキリング

Ridgelinezのコンサルティングサービスに関するナレッジやノウハウを活用した教育プログラムとOJT(On the Job Training)を展開し、社員のコンサルタントへのキャリア転身を支援する。

2.キャリア採用

注力する13の重点領域を対象に、キャリア採用を積極的に推進する。コンサルティングファームでの業務経験の有無に関わらず、特定の業種知識やテクノロジー知識を持つ人材も幅広く募集する。

3.M&A

リスキリングおよびキャリア採用の進捗状況に応じて、M&Aの可能性も積極的に探求する。

また、コンサルティング品質確保のための認定制度を設け、2024年1月から認定コンサルタントを順次輩出している。認定コンサルタントには職責に見合った報酬を提供する人事制度をグループ全体で展開している。

この制度は、優れたコンサルタントを育成し、企業全体のコンサルティング能力を向上させることを目指している。

富士通の今回の発表は、同社がコンサルティング事業に大きな重きを置いていることを示している。1万人のコンサルタントを擁することで、富士通は多様なビジネスニーズに対応し、顧客とともに新たな価値を創出することを目指している。

この大胆な挑戦がどのような成果をもたらすのか、今後の展開が非常に楽しみである。