IT業界の人材争奪戦は、ますます熾烈を極めている。

DX(デジタルトランスフォーメーション)関連のプロジェクトの増加に伴い、優秀な人材の確保が企業の成長を左右する重要な課題となっているのだ。

関連業界として、コンサルティングファームやITベンダーに加え、事業会社がDXプロジェクトの内製化を進める動きも見られている。

本コラムでは、IT人材の採用について各プレーヤーの最新動向をみていきたい。

ITベンダーがコンサル能力を強化

ここ数年、DX需要の高まりとともに、IT人材の需要も右肩上がりに伸びてきた。

DX関連のシステム構築は、経営や事業戦略などの上流フェーズから関与して顧客に提案していく事が求められる。

一方で、従来ITベンダーが行ってきたのは、顧客からもらった仕様を基にシステム構築を行うSI(システムインテグレーション)であり、アプローチが異なる。

近年のDXブームが示すように顧客はコンサル的な手法を望み、需要の伸びと共に、多くの人材がITベンダーからコンサルティングファームへ流入してきた。

しかし、今ではITベンダーが自社内でコンサルティングスキルを持つ人材を積極的に採用し始めている。

例えば、富士通は2025年度までにコンサルティングスキルを持つ人材を1万人に増やす計画を掲げている。

NECも2025年には24年度比300人増の戦略コンサルティング層を強化していくことを示しており、NTTデータや日立製作所も同様の取り組みを進めている。

ITベンダーは、コンサルティングスキルを持つ人材を獲得するために、これまで以上に柔軟なアプローチを取り入れている。

例えば、コンサル組織を他の組織と異なる給与形態にしたり、基本給の制度自体は変えられずともインセンティブ部分を作って待遇を良くするなどの工夫をしている。

これにより、優秀な人材を採用できるようになっている。

高給であることは、求職者にとってコンサルティングファームの魅力の一つであったが、ITベンダーの対抗策も勢いを増してきた。

両社の間で、IT人材の獲得競争は益々熾烈を極めている。

事業会社によるDX人材の内製化

競争相手はITベンダー、コンサルティングファームだけではない。

事業会社のDX部門も同様に、優秀なIT人材の確保に動いている。

特に金融機関では、IT・DX要員の求人数が毎年増加しており、非常に高い年収を提供するポジションも多数ある。

最近のニュースで金融機関が「脱・年功序列」の人事制度に切り替えている様子をよく目にするが、これは人材獲得の1つの手段であるとも言える。

金融機関以外の事業会社でも、DX部門の強化が進んでいる。ここ数年で、求人数やオファー年収の提示額が上がってきた企業も多い。

実際に事業会社でDXプロジェクトを率いてきた経験を持つ人材には、2,000万円に届く報酬を提示することもある。

事業会社のDX部隊は、コンサルからの転職者を多く受け入れており、外部からのアドバイスに頼るだけでなく、内部でプロジェクトを進める力を持つ人材を求めている。

CIO(最高情報責任者)にコンサル出身の役員を据えるなどして、「外部コンサルが重用される」という対外的なアピールをする企業も増えている。

コンサルティングファームに努める方も、「コンサルとして外側からアドバイスをして終わるだけになってしまう」と感じる人は一定数いるため、事業会社側で決裁権を持ってプロジェクトを進めることのできるポジションに魅力を感じるようだ。

仕事のやりがいを求めて、給料を多少落としてでも事業会社に移りたいと希望するコンサルも、30代以上で少しずつ増えている。

シニア世代の再評価が進む

国内の若手人材が減少する中、45歳以上の転職者数は過去数年で大幅に増加しており、シニア世代のIT人材の需要が急増している。

定年を70歳に引き上げる企業も出てきており、シニア世代の経験を活用する動きが広がっている。

企業がシニア世代を積極的に採用する背景には、若手人材の育成コストと引き抜きリスクがある。

20〜30代前半の未経験者を採用して育てても、30代で他社に引き抜かれるリスクが高いため、即戦力として活躍できる50代、60代のベテランを採用する方が効率的だと考える企業が増えているのだ。

シニア世代はシステムトラブルを多く経験しており、トラブルシューティング力が高いことが評価されている。

今後も、シニア人材をうまく活用した企業の成功事例が、他の企業にもシニア世代の採用を促進する動きとして広がっていく可能性が高い。

IT業界の人材争奪戦は今後も続く。

IT人材にとっては、自らのスキルを磨き、変化する市場に適応することが重要だ。

今後のキャリア形成において、どの分野で自身の強みを発揮できるかを考え、積極的に行動することが求められる。

市場のニーズを敏感に察知し、自分のキャリアをどのように築いていくかを真剣に考えることを推奨する。