IFRS(International Financial Reporting Standards/国際財務報告基準)とは、IASB(国際会計基準審議会)が策定するグローバル共通の会計基準である。2026年現在、日本では約300社がIFRSを適用し、時価総額ベースでは東証プライム市場の約半数を占める。サステナビリティ開示基準との接続も進み、IFRSは財務・非財務を統合する情報開示の共通言語となりつつある。今回は、IFRSの概要と2026年の適用状況、導入のメリット・デメリット、そしてIFRS時代に求められる会計人材のキャリアについて解説していきたい。

IFRSの概要と2026年の適用状況

IFRSを理解するうえで最初に押さえておくべきは、「原則主義(プリンシプルベース)」という考え方である。

日本の会計基準は「細則主義(ルールベース)」と呼ばれ、処理方法を細かく規定する。たとえば、のれんの償却期間は「20年以内」と明確に定められている。一方IFRSは原理原則を示し、具体的な適用は企業の判断に委ねる。形式よりも実質を重視し、「経済的実態を忠実に表現すること」が最上位の目的となる。

この違いは実務に直結する。日本基準であれば規定どおりに処理すればよいが、IFRSでは「なぜその処理を選択したのか」を企業自身が説明する責任を負う。経理担当者には、仕訳処理の正確さに加え、会計方針の設計と説明能力が求められるのである。

2026年4月時点で、IFRSを適用済みまたは適用決定した日本企業は約300社に達している。企業数では東証上場企業の約7%にとどまるが、トヨタ自動車やソニーグループなど時価総額の大きい企業が多く、時価総額ベースではプライム市場の約半数を占める。

近年注目すべきは、サステナビリティ開示基準との接続である。ISSBが公表したIFRS S1(全般的開示)とIFRS S2(気候関連開示)を受け、日本ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に日本版の基準を公表した。プライム市場の時価総額3兆円以上の企業から段階的に義務化が見込まれ、財務と非財務を統合的に開示する流れは加速している。

IFRSはもはや「一部のグローバル企業が採用する特殊な基準」ではなく、財務と非財務を統合する開示の共通言語へと変わりつつある。

導入のメリットとデメリットを正しく理解する

IFRS導入の最大のメリットは、海外投資家や取引先との間で財務情報の比較可能性が格段に高まることである。

日本基準の財務諸表は、海外投資家にとって「翻訳」が必要な資料である。のれんの扱いひとつとっても、日本基準では毎期定額償却するため利益が圧縮されるが、IFRSでは非償却のため見かけ上の営業利益が大きくなる。IFRSを採用すれば海外機関投資家が同じ物差しで評価でき、資金調達の幅が広がる。

もうひとつの重要なメリットは、グループ経営の効率化である。海外子会社が現地基準で作成した財務諸表を親会社が日本基準に組み替える作業は膨大な工数を伴う。グループ全体でIFRSに統一すれば組替作業が大幅に削減され、連結決算のスピードと正確性が向上する。筆者がエージェントとして支援する中でも、CFOが「会計基準統一こそがIFRS導入の一番の動機だった」と語るケースは少なくない。

リース資産のオンバランス化(IFRS第16号)も見逃せない。日本基準ではオペレーティング・リースは貸借対照表に計上しないが、IFRSでは原則すべてのリースを使用権資産とリース負債として認識する。企業が実際に使用する資産の全体像が財務諸表に反映され、投資家はより実態に即した判断が可能になる。

一方で、IFRS導入には無視できないデメリットも存在する。

第一に、導入・運用コストの大きさである。会計方針の設計から監査法人との合意形成、社内マニュアル整備まで膨大な準備工数が必要となる。筆者の支援先でも、IFRS導入プロジェクトに2〜3年を要し、経理部門の人員を一時的に倍増させた企業があった。

第二に、日本基準との並行運用の負担である。税務申告は日本基準ベースで行うため、IFRSとの二重帳簿が必要となる。決算期には両基準で数値を算出し差異を調整する作業が発生し、この負荷は導入後も継続するため、長期的な人材計画とシステム投資が欠かせない。

第三に、のれんの減損リスクである。日本基準ではのれんを毎期償却するため利益への影響が予測しやすいが、IFRSでは非償却とする代わりに最低年1回の減損テストを実施する。業績悪化時には一度に巨額の減損損失が計上され、株価への影響も大きい。なお、IASBは2024年にのれんの非償却を維持する方針を暫定決定しており、当面は現行ルールのまま推移する見通しである。

ただし、これらのデメリットは「導入しない理由」ではなく「導入にあたって準備すべき論点」と捉えるのが妥当である。時価総額上位の企業がIFRSを採用し続けている現状は、メリットがデメリットを上回ると経営層が判断している証左だろう。

IFRS時代に求められる会計人材のキャリア

IFRS導入企業の増加は、会計・経理人材の転職市場にも大きな変化をもたらしている。

従来、経理職は「正確に仕訳を切り、期限どおりに決算を締める」ことが主な役割であった。しかしIFRS環境下では、会計方針の選択根拠を経営層に説明し、監査法人と論点を議論し、海外子会社と英語でコミュニケーションを取る能力が求められる。「数字を作る人」から「数字で語る人」への進化が期待されているのである。

この変化を反映し、IFRS実務経験を持つ経理人材の市場価値は明確に上昇している。一般的な経理職の年収が500〜600万円台であるのに対し、IFRS経験を持つマネージャークラスでは700〜900万円、連結決算や開示のリーダーでは1,000万円超のオファーも珍しくない。エージェントとして支援していると、IFRS導入プロジェクトの経験が「最も評価される職務経歴のひとつ」だと実感する場面は多い。

さらに注目すべきは、IFRSを起点としたキャリアの広がりである。経理からFP&A(Financial Planning & Analysis)へのキャリアチェンジは、IFRSの知識があることで格段にスムーズになる。FP&Aはグローバル基準の財務データを分析し経営判断を支援する役割であり、外資系企業を中心に年収1,000万円以上のポジションも多い。その先には、経営戦略に直結するCFOへの道も開ける。

加えて、SSBJのサステナビリティ開示基準の義務化が進むことで、財務とESG情報の双方を理解できる人材の需要はますます高まる。IFRSの財務報告とIFRS S1・S2のサステナビリティ開示を横断的に扱える人材は市場にまだ少なく、希少性が高い。

経理・財務領域でキャリアを築くうえで、IFRSの知識と実務経験は「あれば有利」から「なければ選択肢が狭まる」フェーズに入りつつある。現在日本基準のみで業務を行っている方も、IFRS検定や導入支援プロジェクトへの参画など、早い段階でIFRSに触れる機会を意識的に作ることが、中長期のキャリアを左右するだろう。自身のキャリアの方向性に迷いがあれば、会計・経理領域に精通したエージェントに一度相談してみることをお勧めしたい。