2024年3月29日、ボストンコンサルティンググループ(BCG)と伊藤忠商事は、合弁会社「I&Bコンサルティング」を設立した。
この事業は企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するもので、BCGが他社と合弁事業を組むのは非常にまれである。なぜこの異例のタッグが実現したのか。本稿ではその背景や狙いについて解説する。
企業のDX推進と合弁会社の目的
近年、企業はビジネスの競争優位性を確立・強化するために、社内のIT部門だけでなく、顧客接点となるビジネスの現場(LOB部門)でのIT・デジタル活用を進めている。
従来のシステム開発だけでなく、顧客に寄り添ったコンサルティングやデータ分析など、より広範で柔軟な提案が求められている。
伊藤忠商事は、デジタル事業群を形成し、顧客の要望に応じて最適なサービスを提供してきた。その一環として、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)やベルシステム24を中心に、企業のIT・デジタル活用を支援している。
DX支援には一気通貫のソリューションが求められる潮流があるが、伊藤忠陣営には最上流のコンサル領域が欠けていた。今回の合弁会社設立は、さらに顧客ニーズに応えるためのコンサルティング機能を強化するものだ。
BCGは、世界50ヵ国以上に拠点を持ち、約30,000人のスタッフを擁する経営コンサルティングファームである。1966年に東京オフィスを開設し、日本市場での長年の経験とともに、デジタル・IT分野においてもグローバルで最先端の知見を持つ。
最上流にあたる戦略領域を主戦場としてきた企業であるが、今回の提携により、上流で整理した顧客の要望と選択に応じたITサービス・BPOを絡めたソリューション提供が可能となる。
I&Bコンサルティングが実装力を持つことにより、情報システム部門など下流からの案件獲得も期待できるだろう。
競合各社への対抗戦略
この戦略的提携の背景には、コンサルティング業界の巨人アクセンチュアをはじめとした競合各社への対抗意識が見え隠れする。
アクセンチュアは、120カ国以上で事業を展開しており、日本においてもそのネットワークを活かして、特にテクノロジーコンサルティングにおいて高い市場シェアを持つ。
そのアクセンチュアの強みの1つが、エンドツーエンドのソリューション提供である。顧客の課題解決のために、戦略立案から実行、運用までの全てのプロセスを包括的に支援するスタイルが、現代の顧客ニーズを捉えているのだ。
一方、デロイト トーマツ コンサルティング(デロイト)も国内においてトップシェアを誇る企業の1つである。幅広い業界において、上流のアドバイス領域を軸にトップマネジメントから信頼を得ている。
しかしデロイトも、近年はインプリメント領域やオペレート領域を強化しており、エンジニア採用についても積極的である。上流・下流の双方において、グループとしてのケイパビリティを拡大している。
両社の違いは、個社として一気通貫でサービスを提供するか、グループとして提供するか、といった点だ。
先述の通り、アクセンチュアが個社としてのサービス提供を行っているのに対し、デロイトはデロイト トーマツ アクト、デロイト トーマツ ノードといったグループ企業がインプリメント領域を担う。
今回の伊藤忠商事とBCGの提携は、両社が足りないピースを補完し、グループとしてサービスラインナップを整えた形であるが、合弁事業という新たなスタイルである。
日本のDX需要は今後ますます高まり、これからが本番である。各社が質の高いサービスを提供することで、さらなる成長が期待される。
I&Bコンサルティングは3年後には100人規模の体制を目指している。この新たな取り組みがどのように進化し、ビジネス界に影響を与えるのか、今後の動向に注目していきたい。
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