事業開発(BizDev)とは、新規事業の立ち上げやアライアンス構築、収益モデルの設計を通じて企業の成長を推進する機能であり、近年ではセールス経験を持つ人材がこの領域で高い成果を上げるケースが増えている。

セールスとしての市場価値を高める方法は、個人の売上実績を伸ばすことだけではない。

本稿では、セールスの立場から事業開発をリードするための具体的な動き方と、そこからキャリアを広げていく戦略について解説していきたい。

なぜ今「BizDev」というポジションが求められるのか

2026年現在、求人サイトや転職エージェントの案件一覧を見ると「BizDev」「事業開発」という職種名が目に見えて増えていることに気づくだろう。

その背景には、SaaS企業を中心としたPLG(Product-Led Growth)モデルの普及がある。

PLGとは、プロダクトそのものの体験を通じてユーザーを獲得・拡大していく成長戦略であり、従来の「営業が足で稼いで契約を取る」というモデルとは根本的にアプローチが異なる。

しかし、PLGが普及したからといってセールスが不要になったわけではない。

むしろ逆で、プロダクトの成長を加速させるために「売るだけではない営業力」が求められるようになったのだ。

具体的には、顧客のフィードバックをプロダクトに還元する力、他社とのアライアンスを通じてサービスの価値を拡張する力、営業プロセスそのものを仕組み化して組織全体の生産性を引き上げる力である。

こうした役割を総称して「BizDev」と呼ぶ企業が増えており、従来のセールス職の延長線上に新たなキャリアの選択肢が生まれている。

筆者がエージェントとして転職支援に携わる中でも、セールス出身者がBizDevポジションに転じて市場価値を大きく高めた事例は少なくない。

営業としての王道キャリアパスは、高い実績を残してスーパープレイヤーになるか、マネジメントに移って営業組織を率いるか、という2つに集約されることが多い。

しかし、事業開発という第三の道を選ぶことで、個人の売上やチームの管理とは異なる次元で成果を出すことが可能になるのである。

事業開発を推進するセールスの2つの貢献方法

セールスの立場から事業開発に貢献する方法は、大きく2つに分類できる。

第一の貢献:プロダクト・サービスの品質向上

1つ目は、サービスやプロダクトそのものの品質を高める方向での貢献である。

最も基本的な活動は、顧客からのフィードバックを開発チームやプロダクトマネージャーに正確に伝達することだ。

しかし、事業開発を担うセールスの貢献はそこにとどまらない。

他社とのアライアンスを構築し、プロダクトの提供価値そのものを拡張するという、より上流の活動が求められる。

わかりやすい例を挙げると、ゲーム業界におけるアライアンス営業がこれにあたる。

任天堂のような強力なIPを持つ企業とコラボレーションを実現することで、自社ゲームの魅力を飛躍的に高めることができる。

こうしたアライアンスの成否は、単なる営業スキルではなく、両社のプロダクト戦略を理解したうえでの提案力にかかっている。

ゲーム業界に限らず、複数企業がアライアンスを組むことで優れたユーザー体験を提供するケースは幅広い業界に存在する。

たとえばフィンテック領域での決済サービスと家計管理アプリの連携や、HR Tech領域での求人プラットフォームとスキル診断ツールの統合など、事例は枚挙にいとまがない。

こうしたアライアンスのスキーム設計において中心的な役割を果たすのは、多くの場合セールスである。

ただし、この貢献の仕方には留意すべき点もある。

アライアンス交渉は経営層の判断を伴うため、一定の裁量や組織内でのポジションが求められる場面も少なくないのだ。

第二の貢献:営業組織全体のパフォーマンス向上

2つ目は、営業組織全体の成果を底上げする仕組みづくりへの貢献である。

身近な例では、自分が成功したトーク内容をスクリプトとして体系化し、チーム全体に展開するといった活動が挙げられる。

より大きなインパクトを持つ取り組みとしては、集客チャネルの新規開拓がある。

リファラルパートナーとなる企業との提携をまとめ上げ、見込み顧客の獲得手法を増やすことで、営業組織の「打席数」を構造的に拡大できる。

こうした仕組みの価値は、その継続性と波及効果にある。

たとえば、顧客の誕生日に連絡を入れることでアポイント獲得率が10%向上するという知見を発見したとしよう。

これを個人の工夫にとどめず、CRMにリマインド機能として組み込み、チーム全体に展開すれば、組織全体のアポイント獲得率を時期の制限はあるとはいえ向上させることが期待できる。

さらにこの仕組みは、翌年度以降も継続的に効果を発揮し続ける。

1つひとつの施策のインパクトは小さく見えるかもしれないが、こうした改善の積み重ねこそが営業組織の生産性を構造的に高めるのである。

筆者の支援経験においても、個人の営業実績だけでなく「組織にどのような仕組みを残したか」を語れる候補者は、BizDevポジションの面接で極めて高い評価を得ている。

個人としてのハイパフォーマンスではなく、事業全体を良くするノウハウとして展開し、仕組みとして構築することこそが、事業開発をリードするセールスの本質的な価値なのだ。

セールスからBizDevへのキャリア形成戦略

では、事業開発を担えるセールスになるためには、どのようなキャリア形成が有効なのか。

まず注目すべきは、どれだけの裁量を持てる環境に身を置けるかという点である。

もちろんどのような企業であっても改善の余地は存在するが、仕組みがまだ整いきっていないスタートアップは個々のメンバーに大きな裁量が与えられる傾向にあり、組織改善や事業開発に手を伸ばしやすい。

一方で、社員10人以下のごく小規模なベンチャーでは、ノウハウや仕組みを活用する人数が限られるため、インパクトが小さくなりやすいという課題がある。

理想的なのは、50〜300人規模の成長フェーズにあるスタートアップだ。

この規模であれば、仕組みづくりの余白が十分にありつつ、構築したノウハウが組織全体に波及するだけのスケールも確保できる。

加えて、成長しているスタートアップには仕組みやノウハウの構築を行ってきた先人がいるため、手本として学ぶことができるのも大きな利点である。

キャリアパスとしては「営業担当→BizDev→事業責任者」という流れが一つのモデルとなる。

営業として顧客解像度と実績を積み上げたうえで、BizDevとしてアライアンスや仕組みづくりに領域を広げ、最終的には事業全体のP/Lに責任を持つポジションへと昇っていく道筋だ。

このキャリアパスの強みは、現場感覚を持った事業責任者になれるという点にある。

顧客の声を直接聞いてきたセールス出身者だからこそ、机上の戦略ではなく、市場のリアリティに裏打ちされた事業判断ができるのである。

個人としての売上成績を追求したり、チームマネジメントに注力したりという方向性にしっくりきていない方は、事業全体を良くしていく仕組みづくりや基盤構築というキャリアを選択肢に加えてみてほしい。

セールス経験を事業開発の武器に変える具体的な企業選びや転職タイミングについては、ぜひ一度エージェントに相談いただければと思う。