中小企業の後継者不足を背景に、国内のM&A件数は増え続けている。市場は伸びるが、仲介への転職は狭き門だ。評価されるのは業界経験ではなく、前職で出した成果だ。
M&A仲介業界の市場動向と転職難易度
M&A仲介は、企業の合併・買収において、売却側と買収側の間に立つ専門業界である。どちらか一方の代理人になるのではなく、中立的な立場から双方の条件をすり合わせ、契約の成立までの工程を管理する。
国内のM&A総件数は右肩上がりで推移しており、成長の勢いは2026年現在も衰えていない。
背景にあるのは、少子高齢化に伴う後継者不足の深刻化だ。会社を引き継ぐ相手が見つからない中小企業は増えており、事業承継を目的としたM&Aのニーズは増加し続けている。
会社を存続させたい売却側のニーズと、事業規模を拡大したい買収側のニーズが合致することで、M&A仲介企業への依頼件数は着実に伸びている。
今後もこの傾向は続くと予測されており、M&A仲介業界は中長期的に有望な成長市場であるといえる。
業界全体の急成長に伴い、各社の採用活動も積極的に行われている。ただし、転職の難易度は高い水準にある。
採用の基準では、M&A業界での実務経験があるかどうかよりも、前職でどのような成果を出してきたかが重視される傾向が強い。
中途採用で通るのは、前職で目覚ましい成果を出してきた人材にほぼ限られるのが実情だ。
これまでの経験やスキルを多方面から示す必要があるため、選考は書類選考や面接だけでは終わらない。適性検査・作文・プレゼンテーションを課すなど、多面的な選考を実施する企業も多い。
選考の各段階で力を出し切るには、入念で多角的な準備が欠かせない。
M&A仲介業界は志望者の多さに対して採用枠が限られている。筆者がエージェントとして支援を行う中でも、競争率の高さを感じる場面は多い。
なお、M&A仲介企業と似た業態にアドバイザリー(FA)がある。FAが売却側または買収側の一方と専属契約を結び、その立場で交渉に臨むのに対し、仲介企業は双方の利益の最大化を図る中立的な立場を取る。両者はこの点で本質的に異なる。
M&A仲介で求められるスキルと経験
M&A仲介業界への転職で最も評価されるのは、法人営業の経験と、経営者と直接向き合った商談の経験である。
主な採用職種としては、プロセス全体を支援するM&Aコンサルタント、新規顧客の獲得を担うインサイドセールス、データ分析で意思決定を支援するアナリティクスなどがある。
M&Aの現場では、企業のトップである経営者と緊密で長期的な関係を築くことが求められる。担当者として正確で綿密なやり取りを重ね、信頼を勝ち取る高い提案力を示せるかどうかが土台になる。
M&Aの交渉では巨額の資金が動き、企業の経営権の委譲が行われる。重大な局面で、売却側と買収側の双方が納得する落としどころを見出す高度な交渉力が問われる。
基本的な財務・会計の知識も武器になる。企業の財務状況を的確に読み解く力は、M&Aの評価やデューデリジェンス(買収前に対象企業を精査する手続き)といった場面で直接活きるからだ。
公認会計士や簿記などの公的資格の保有者は、経営者からの信頼を得やすく、選考でも有利に働きやすい。
入社後も、会計・税務・法務などの知識を幅広く学び続ける意欲と吸収力が欠かせない。
加えて、M&Aの手続きが進む過程では、投資家・法律顧問・財務アナリスト・行政機関など、多数の関係者が関与する。
異なる利益や意見を調整して合意形成に導く力と、複数のタスクや関係者とのやり取りを同時に進行させる力が必須となる。
未経験からの転職も不可能ではないが、大手金融機関や商社、メーカーなどで明確な実績を出してきた20代から30代の若手人材が有利であることは事実だ。
特に銀行や証券会社、商社の営業担当をはじめ、営業に強い事業会社の出身者であれば、転職が成功する可能性は高まる。
未経験でも、企業の財務や経理など、経営状況を把握できる立場で働いた経験はM&A仲介の現場で活かしやすい。
金融業界の経験がなくとも、法人営業で明確な数字を残してきた実績があれば、十分にチャンスはある。
M&A仲介への転職準備と企業選び
転職活動における第一歩は、自身がアピールできる経験やスキルの徹底的な棚卸しである。
現職が営業職であれば、営業実績を年度別・プロジェクト別に細分化して数値にする。そのうえで志望動機や自己PRに盛り込めば、営業力の高さが具体的に伝わる。
棚卸しでは、経営者と直接向き合った商談の経験も併せて拾い出しておきたい。法人営業の実績とともに、M&A仲介業界の選考で最も評価される要素だからだ。
営業成績だけでなく、前職での課題解決の進め方を整理しておくことも、M&A仲介企業が重視する問題解決能力のアピールにつながる。
整理の形は、課題をどう捉えたか、なぜその打ち手を選んだか、結果がどう動いたかの一続きにする。結論だけを並べると、理解の正確さが伝わらない。
「課題を正確に理解し、確実で間違いのない解決方法を検討できる人材」こそ、M&A仲介企業が最も求める人物像である。
企業選びにおいては、案件をどのように獲得しているか、インセンティブの還元率はどの程度か、業界特化型かどうかといった点で、各社の特色を比較検討することが望ましい。
IT業界特化や不動産業界特化といった専門型のM&A仲介企業もあり、特定業界の知識を持つ人材であれば優先的に評価される可能性が高い。
転職サイトだけを頼りに進めると、各社の実情までは見えにくい。M&A業界に精通した転職エージェントを利用すれば、企業の内情や求める人物像をより深く把握したうえで転職活動を進められる。
M&A仲介業界の年収水準は、国内でもトップクラスにある。平均年齢が30代前半でありながら、平均年収が数千万円に達する企業も複数存在する。
ただし給与の大部分は、成果に応じて支払われるインセンティブで構成される。高い収入を実現するには、負荷の高い働き方に耐える力と、絶え間ない成長意欲が求められる。
年収の高さだけを動機にすると、入社後のミスマッチにつながりやすい。筆者のエージェント経験からも、自身の適性と業界特性を冷静に照らし合わせたうえで挑戦することを勧めたい。
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