リクルートのAirレジがなぜ無料で提供されているのか知っているだろうか。

これは単なるビジネスの一環ではなく、巧妙な事業戦略が背景にある。リクルートの成功事例は、ビジネスの戦略を知るうえで大いに参考になるだろう。

本コラムでは、その拡大戦略の全容について深掘っていく。

SaaS事業の拡大背景

リクルートは、求人広告やゼクシィなどで広く知られる企業である。

圧倒的な営業力で顧客を開拓し、集客した個人ユーザーと結び付けプラットフォームとしての価値を最大化させる「リボンモデル」が有名だ。

しかし、近年はSaaS事業においても非常に大きな成功を収めている。2010年代から始まったリクルートのSaaS事業は、今や360万以上のアカウントを保有する巨大なビジネスへと成長している。

その中でも特に注目すべきは、AirレジというPOSレジの無料提供を通じて市場を拡大した点である。

Airレジは、従来の数十万円もする高額なレジシステムとは異なり、2万円のタブレットとアプリだけで運用が可能である。この手軽さとコストメリットにより、リクルートは事業開始初年度にして10万アカウントを獲得することに成功している。

この成功は、リクルートの強力な営業力と、顧客ニーズを的確に捉えた製品開発の成果であると言える。

AirレジのLand-and-Expand戦略

Airレジの無料提供は、リクルートの巧妙なLand-and-Expand戦略の一環である。

この戦略はネットワーク効果が効きやすいプロダクト(コミュニケーションツールなど)に採用される。

戦略の基本は、まず無料で広範な顧客基盤を築き、その後に関連する有料サービスや周辺機器を提案していくことである。追加提案するサービスとしては、決済システムのAirPayや、予約管理システム、さらにはクーポンサービスなどがその一例である。

リクルートは、Airレジを起点として、顧客の様々なニーズに対応するサービスを提供している。

例えば、Airレジを導入した飲食店は、レジ機能の効率化に加えて、ホットペッパーグルメを使った集客施策や、資金調達サービスのAirCASHを利用することができる。

このように、無料のAirレジを導入することで、顧客はリクルートの他のサービスにも自然と引き込まれる形となる。

この戦略により、リクルートは顧客のLTV(ライフタイムバリュー)を大幅に引き上げることができている。

初期の無料提供で顧客を引き付け、その後に付加価値の高いサービスを提供することで、長期的な関係を実現しているのである。

ソリューションビジネスへの転換

圧倒的な顧客基盤を強みに持つリクルートがなぜソリューションビジネスへ舵を切ったのか、その理由は顧客数の頭打ちという課題に直面したからである。

実は、旅行・飲食・不動産など多くの領域でメディアを展開しているものの、2010年代からは顧客数の頭打ちを迎えていた。

既に関係性のある顧客は資金繰りに余裕のある事業者が多く、市場の大半は接点を持っていなかった。

この点が企業成長の足枷となっており、Airシリーズはそれを打ち破る一手である。

施策は実際に大成功を収め、Airシリーズの導入企業数はリクルートの旧7事業社全体(キャリア、ライフスタイルなど)の顧客数を上回る規模まで増加し、さらに強固な顧客基盤の獲得に繋げている。

リクルートは大学新聞の求人広告から事業をスタートさせ、マッチングビジネスで大きな成功を収めた。

その後も、Indeedの買収をはじめとしたHRテクノロジー事業の拡大や今回のようなビジネスモデルの転換など、時代と共に変化を遂げてきた企業である。

彼らがさらなる革新と成長を遂げるための次なる一手はどのようなものとなるのか。今後の戦略が非常に楽しみである。