情報処理推進機構(IPA)が、日本におけるDXの取り組み状況に関する調査を「IPA DX動向2024」として2024年6月に公開した。

調査によると、DXを推進する人材の 「量」および「質」 に関して、約8割の企業が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答している。

このデータは、DXの推進において人材の確保が依然として大きな課題であることを示している。

85%の企業が量・質に課題

DXを推進する人材の不足は深刻な問題となっている。

調査では量・質の観点での不足状況を確認しているが、2021年からの3年間にわたり、「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した企業の割合は、概ね85%と高い水準のままであった。

特に、ビジネスアーキテクト(DXの目的設定から導入から効果検証までを主体的に推進する人材)や、データサイエンティスト、サイバーセキュリティなどの専門職が大幅に不足しており、多くの企業がこの人材確保に苦慮している。

DX人材の採用と育成には多くの課題が存在する。

採用に関する課題感を調査した項目では、「魅力的な処遇が提示できない」「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」の回答率が特に高く、人材要件の明確化と処遇という人事制度上の課題感が強いことが指摘されている。

育成においては、成果が出ていると回答した企業と、成果が出ていないと回答した企業の両者で、課題に感じている項目の差が確認できた。

成果が出ていないと感じている企業は「育成予算の確保」「育成戦略や方針が不明瞭」の2項目において、顕著に課題を感じているようだ。

これらの結果から、筆者は全社の戦略として主体的に取り組む事の重要性を感じた。

予算の確保や、主業務として取り組む組織や人材を設置するか否かは経営上の重要な判断となり得る。

これまで数々の有識者が示してきた事実であるが、改めてDXは現場の課題ではなく、全社として取り組むべき課題であることが示されている。

成功の鍵を握るビジネスアーキテクトの存在

前述の通り、経営陣がDXを全社として取り組むべき課題として周知徹底させる姿勢は必要不可欠である。

DX人材の育成・採用は、社内の支援が不可欠であり、経営層からの強いメッセージとそれに伴う予算やリソースが成功の鍵となる。

現場は従来の業務フローや仕事のやり方を変えたがらないというのが基本だ。DX推進者として任命された人材も現行業務との両立に悩むが、経営層の強い後押しがあればこれを克服できる。

調査によると、日本企業は、海外と比べてDX人材の育成・採用に対する優先順位が低く、その原因は求める人材の具体像が明確でないことにある。

これまで日本企業はITエンジニアを外部ベンダーに依存してきたため、どのような人材が必要かを具体的に把握していないのだ。

しかし、現在は内製化に成功する企業も出てきている。

こうした企業には必ずと言っていいほど、ビジネス課題を明確にし施策を作成するビジネスアーキテクトが存在する。

彼らは経営層のバックアップを受け、DXにおける目的を明確にし、関係者を巻き込みながら一気通貫でプロジェクトを推進する役割を担う。

社内の業務課題を最も知るのは社内の人間であり、外部のコンサルタントでは変えが効かない。

このようなビジネスアーキテクトを育成していくことが、DXの第一歩とも言えるだろう。

本コラムで述べてきたように、DXの推進において、人材の「量」および「質」の確保が依然として大きな課題となっている。

企業は魅力的な処遇の提示や明確なスキル定義、効果的な育成戦略の構築を急務として取り組む必要がある。

そのためには、ビジネスアーキテクトの育成が鍵を握る。

海外に後れを取る日本企業のDXも着実に進歩はしている。

従来のように「DX人材がいないから採用しろ」と採用部門に抽象度の高いオーダーを出すのではなく、まずはビジネスアーキテクトの育成から、本気で取り組む企業が増えることに期待したい。