近年、日本のスタートアップコミュニティでは、上場を目指さない企業が増加している。

この現象は一体なぜ起きているのだろうか。過去には「株式上場」が成功の象徴とされていたが、現在ではその風景が大きく変わりつつある。

本コラムでは、上場を避けるスタートアップの背景と今後の展望について探ってみる。

なぜスタートアップは上場を避けるのか

かつて、スタートアップにとって上場は大きな目標であり、成功の証とされていた。

上場を実現させると、会社の社会的評価が上がったり、よりスピーディーに事業を拡大したりできるようになるためだ。

しかし、最近では上場を目指さない企業が増えている。その理由の一つとして、上場のメリットが減少している点が挙げられる。

株式上場には多大なコストがかかり、四半期ごとの業績報告や法的手続きなど、企業にとって大きな負担となる。

また、上場後は短期的な業績に対するプレッシャーが増し、長期的なビジョンや戦略が損なわれる可能性もある。

こうしたデメリットが資金調達などのメリットを上回っているのだ。

これは特に、資金調達の手段が多様化したことが影響している。

例えば、ベンチャーキャピタル(VC)市場は急速に成長しており、豊富な資金が流入している。

低金利環境や投資家のリスク志向の高まりが、スタートアップへの投資を促進しており、スタートアップは上場せずとも成長資金を獲得しやすくなっている。

また、クラウドファンディングやエンジェル投資家からの資金調達も、スタートアップ企業にとって有力な選択肢となっている。

これらの手段は、インターネットとデジタルプラットフォームの発展により、より多くの投資家から直接資金を集めることを可能にしている。

さらに、日本政策金融公庫がスタートアップ向けの融資枠を従来の最大4000万円から7000万円まで拡大した点も大きい。

融資限度額の引き上げだけでなく、返済期間の一部と据置期間も延長されている。利便性が向上し、より使いやすい制度となったことで、スタートアップの資金調達は非常に行いやすくなった。

これら複数の事象が重なり、従来の上場を通じた資金調達の必要性が低下しているのである。

M&Aによるエグジットが1つの手段に

実は世界的に最も一般的なエグジットの方法はM&Aである。

米国、東南アジア、インドでは90%以上、欧州では68%がM&Aでエグジットしている。FacebookがInstagramを買収した例や、GoogleがYouTubeを買収した例が象徴的だ。

国内では上場が主要な手段として採られてきたが、ここにきてM&Aによるエグジットが増加している。

例えば、トヨタが米国企業の自動運転部門を買収するなど、M&Aによるスタートアップの大型買収例が増えている。

このようにスタートアップのM&Aでは大企業が買い手となることが多く、豊富な資金のバックアップを受けたり、企業の知名度、信用力を向上させる効果がある。

また、大手傘下であるという信用力により、銀行など金融機関からまとまった額の融資の合意を得ることができるようになり、上場しなくても資金調達がしやすくなる傾向にある。

さらに、実現性の観点からもM&Aは上場より現実的である。

上場には、企業の時価総額や純資産の額が一定以上であること、上場時に一定の株主数が見込まれることなど、満たさなければいけない基準がいくつか存在する。

莫大なコストをかけても承認されないケースも多々存在するため、M&Aを好む経営者が増えている。

こうした背景がM&Aによるエグジットを加速させている。今後も、スタートアップが上場を避け、M&Aを選択する傾向は続くと予想される。

前提として、企業のビジョンや戦略に最も適した経営形態を選ぶことが重要である。

上場は一つの選択肢に過ぎず、成功の象徴ではない。スタートアップは多様なエグジットの方法を検討し、最も適した成長戦略を追求することが求められている。